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DATUMS 1998.07
インターネットと、SOHOと、事業協同組合と

藤倉 潤一郎  全国デジタル・オープン・ネットワーク事業協同組合代表理事

■ふじくら じゅんいちろう
 1968年生まれ。早稲田大学卒業。91年コミュニティ・サークルの高度メディア利用の推進と新規事業開発を主な事業とするネクステージ・システム(株)を設立、代表取締役。「バーチャル・コーポレーション・センター」、「shinjuku.or.jp」をプロデュース。全国デジタル・オープン・ネットワーク事業協同組合代表理事。共著書に『インターネット・ビジネス成功術』(PHP)、『インターネット・ビジネスの仕掛け方』(ダイヤモンド社)などがある。


  昨年末の頃だったか、渋谷にある私の家に父が訪ねてきた。何気ない会話から仕事の話題になって、どういうわけか父は「我々のグループの21世紀に向けての重要なテーマの一つがSOHOだ」というような主旨のことを話した。父はGEキャピタル・カー・システムという会社の代表を務めている。父が「我々のグループ」と言っているのは、GEキャピタルを中軸としたGEグループのことだ。私は少々びっくりして、「どうしてGEみたいなグローバル・コングロマリットにSOHOが関係あるのか?」と尋ねてみた。
  そもそもSOHOという言葉は、コンピュータやネットワーク業界の用語として生まれた。情報通信技術は低価格化し、多少の勉強さえすれば誰でも使いこなせるレベルにまで簡単になってきた。大企業は既にインターネット化され、業界としてはこれ以上の大きな売上げを見込めない。そこで次は「スモール・オフィス」と「ホーム・オフィス」だ、ということになった。マンハッタンのソーホー地区で活躍していた多数のアーティストたちや情報サービス関連のベンチャー起業家たち、NPOなどが注目され、マスコミはこぞって彼らの仕事ぶりやライフ・スタイルを取り上げ、社会にそのイメージを伝搬した。インターネットを中核として様々な情報技術を利用し、産業のフロンティアを切り開く個人やベンチャー起業家たちの時代。こうした未来像が国家戦略の心臓として据えられた。5年以上も前の米国の話である。私のSOHOという言葉の理解はそんな背景に根ざしたものだった。だから、当時はGEグループのようなグローバル・コングロマリットとSOHOとは無縁だと思っていたのだ。
  音楽業界には小室哲哉氏が、ゲーム業界には「ポケモン」の田尻智氏が登場し、情報のビジネスは、結局のところ個人の資質に依存するのだということが誰の目にも明白になってきた。ここ数年で大企業のテレワーカー(在宅勤務やサテライト・オフィスなどの利用者)や在宅主婦層、従来型の中小企業から農家までが我々もSOHOだと主張し始めるようになっていたようだ。力強い新しい言葉には、たくさんの利害関係者によって多様な意味が付加されていく。SOHOという言葉も同様らしい。父の話から分かったことは、大組織においてはリストラやコスト削減のキーワードとしてもSOHOという言葉が使われているのだという現実についてだった。大企業も、個人も中小企業も、そして行政までもが、SOHOという新しいカテゴリーの解釈を通じた陣取り合戦を繰り広げているわけだ。ここで大切なのは、かなり大多数の日本人がSOHOという言葉を好意的に捉えはじめ、自らをSOHOとして定義しはじめているということだ。それは何故か? 中小企業や個人事業主、あるいはサラリーマンという言葉はダサくて、そこにはマインドや将来のビジョンが感じられないが、SOHOという言葉にはそれがあるから。少なくとも、そう思いたいから。SOHOを名乗る者たちの目に映っているのは、自由に創造的な仕事を行い、生活を楽しむ達人たちのイメージである。
  ビジネス・マナーはもちろん、言葉や文化や思想や宗教などが異なる様々な価値観を持った人々を相互接続する時代に求められているのは、激しい国際競争とともに相互扶助の精神、協同の精神を世界規模に拡大させる様々なビジネス・プラットフォームである。こうした意味で、インターネットはSOHOたちのレジャー・ランドであり、レジャー・サービス産業はSOHOたちの創造性を活かせる格好のビジネスの場でもある。本誌を読まれている諸兄には、SOHOたちとともにより一層自由で創造的な生活産業の切り開かれていくことを期待したい。もっとも、マルチメディアという概念がインターネットに収斂した様に、SOHOという概念がより社会化して定着するときにはまた別の言葉が使われているのかも知れない。

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