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DATUMS 1998.08
子どもを鍛える

岩下 郁子  (有)ヒューマンボイス代表

■いわした いくこ
 1969年、中央大学文学部社会学科卒業。編集記者を経て、上田子ども劇場の創設にかかわり、80年より96年まで長野県運営委員長、全国連絡委員等を歴任。94年、友人と企画室(有)ヒューマンボイスを設立。若者と地域を結ぶ企画を打ち出し、全国各地で子どもの権利条約や地域での若者との活動について講演、シンポジウムを行うほか、東海テレビ、長野朝日放送、FM長野等に出演。著書に『ぼくの大しっぱい』『1年2組はまほうのクラス』(以上ポプラ社)『ぼくの友達デカポン』(佑学社)など。


  「子どもの問題」を社会の仕組みに噛み合わせたいという願いのもとに、子どもたちがスタッフとして参加する企画室(有)ヒューマンボイスを設立して5年目を迎えた。
   ちょうど、子どもの権利条約が日本で批准された年でもあり、私たちは地域における子どもの意見表明と文化活動の行使をテーマにしてきた。初年度には、マンガ子どもの権利条約「子どもだって人間なんだぞ」を出版し、続けて《子どもの権利条約フェスティバルVol.1,2》、商店街と組んで街の中心部で開催した《山田かまち展&もうひとつのかまち展》、6回目となった高校生スタッフによる自主企画《おからライブ》等々。行動の母体となった高校生スタッフは延べ 120人を越え、何らかの形での参加者は大人・子ども合わせて9000名近くになっている。
  12万人そこそこの地方都市の小さな民間の企画室の仕事としてはちょっとおもしろいと思われてマスコミに取り上げられたり、学校を越えた高校生の交流の場として人気も上がってきた。地域での大人と子ども/世代と世代をつなぐ一つの道をつくることができたと思っている。
  しかし、ヒューマンボイスは単なる子どものたまり場ではない。社会に向かって主張し、行動し、自分が何者なのかを発見する所なのだ。
  大人として、次の世代に「さあ、どう生きるの?」と突き付けてきたつもりだったが、次々と登場する若きナルシスト集団との対応に追われていると、その辺が怪しくなってくる。突き付けたはずの問いが、自分の感覚以外に判断基準を持たない、今時の高校生にぶつかって戻ってきてしまう。「さあどう生きるの?」鍛えるつもりが、鍛えられる羽目になった私たちは今、改めて原点に返り、この仕事に対する価値観を問い直している。
  そんな課題をもって、今年から『上田演劇塾』を発足させた。代表に俳優の伊藤巴子さん(劇団仲間)、芸術監督に演出家の藤原新平先生(文学座)をお迎えすることができた。
  長年総合芸術である演劇活動に携わっていらしたプロ中のプロの力に圧倒され、緊張しながらも、公募・選考によって決まった中学生から40代までの塾生23人で、12月の第一回公演めざして練習を開始したところである。作品創造という仕事と、人間を育てるという仕事が噛み合うことができるのか、という難しい命題を抱えながら、演劇塾の形をつくるべく奔走(迷走)している。そして人間とは何かを学びたくて、毎週一回の稽古に立ち会っている。
  最近、全国各地で、行政と演劇人が組んだ様々な創作活動が始まっているが、私たちは塾生の月謝と入場料や寄付が頼りである。しかし、文化活動を民間で行うよさもあるに違いないと考えて、満足のゆく作品をつくるために力を出したいと覚悟を固めている。

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