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DATUMS 1999.12
会社で働く時代から、社会で働く時代へ

伊藤 裕夫  文化政策研究家

■いとう やすお
 1948年大阪生まれ。東京大学文学部卒業。(株)電通プランニング室・PR企画部を経て、88年より(株)電通総研で文化政策と民間非営利活動を主なテーマとして取り組み、99年春退職。96年より桐朋学園短期大学非常勤講師、97年より明治大学文学部兼任講師。構想日本政策委員。著書に『文化のパトロネージ』(編著・洋泉社/1991)、『企業の社会貢献』(共著・日本経済新聞社/1991)、『NPOとは何か』(共著・日本経済新聞社/1996) 他。


  筆者は、今春、筆者も政策委員として関わっている非営利の政策シンクタンク構想日本において、「21世紀のワークスタイル──『会社』で働く時代から、『社会』で働く時代へ」という、これれからの時代における働き方とそれを支える社会システムに関する提言レポートをまとめた。報告書では、近年の企業における新しい就業形態の模索やベンチャー等の起業動向、また地域(コミュニティ)における女性や高齢者の活動などをふまえ、被雇用者の保護を柱とした20世紀型の勤労システムから、多様な社会参加を「職業(ジョブ)」を通して実現できる21世紀型のそれへ転換することの必要性を訴え、具体策として、企業と自治体、NPOが費用を分担し合う人材交流や、兼職など多様な働き方を認めること、転職リハーサルとして企業がサバティカル休暇制度を用意するなど、独立・自営のための環境整備、転身のリスクを軽減する新しい雇用保険などを提言した。
  私たちの基本的視点は、今日の雇用問題を規制緩和や産業構造の変化という市場の論理で考えるのではなく、社会的・人間的な立場から、近代産業社会の賃金労働とは異なるワークスタイルの多様な発展の保障を探ることにあった。すなわち、近代の勤労システムは、基本的には企業等に雇用される労働者の権利を産業の発展との調和の下に守るというもので、「会社で働く」ことが基本的な了解事項として様々な労働条件の基準がたてられ、それが時代環境の変化の中で改訂されてきた。しかし今日、社会は「脱産業社会」に転換しつつあり、「働く」ということの意味も含め、その実態は大きく変化しようとしている。
 そこでは、働く場は何も企業やそれに類する(巨大)組織に限らない。工業社会においては典型とされたピラミッド型の組織を持った企業形態は、近年は経営学的にも批判されるべきものとなり、分社化やアウトソーシング化が進み、それにともないSOHOといった新しい独立自営の業種が生まれてきている。また、目を企業以外に移すなら、昨今の市民活動の急増とそれにともなう特定非営利活動法人(NPO)の法制化、協同組合やワーカーズコレクティブといった企業形態をとらない事業体の拡がりなど、様々な「働き場」が誕生してきている。
  このように、今日の脱産業社会状況の下では、「会社で働く」ことを前提に労働政策や施策を進めていくことの現実性は弱まってきている。加えて、今後の高齢化の進展、さらには行政改革や地方分権の進行具合では、地域をベースにした各種のコミュニティ活動がますます盛んになり、そうした活動の職業化・プロ化が進み、これまでとは大きく異なった職業構造の変化──「社会で働く」といった労働の構図が生まれてくるであろう。
 私たちは、このような認識に立ち、勤労システムのパラダイム転換をまず求め、そのために「ジョブ」という欧米で見られる雇用慣行をベースにした、多様なワークスタイルの保障システムを提言した。職務とは、一言でいうなら、「どこで働いているのか」ではなく「何をしているのか」ということを、その人の仕事能力をはかる上で基準とする考え方で、古く中世からの職人組合であるギルドに由来する慣行である。この職務がベースとなって、個別企業を超えた仕事能力の評価のもと、人は自分のキャリアを「社会」で形成していくことが可能となるのである。
  今年6月、深刻化する雇用不安の払拭と産業競争力の回復を目指し「緊急雇用・産業競争力強化対策」が閣議決定され、雇用70万人創出に向け民間企業や国・地方公共団体と並んで「NPOの活用」が取りあげられた。様々な市民による社会活動に、政府が「雇用」という社会経済的な意義を期待するようになったことは、基本的には歓迎したい動きではあるが、それが単なる失業対策だけに終わらせないためにも、NPO自身が新しいワークスタイルへの展望を切り開いていく必要があろう。

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