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DATUMS 1999.06
音は人なり――クラシック音楽界への警鐘

宇宿 允人  フロイデフィルハーモニー音楽監督

■うすき まさと
 1957年東京芸術大学器楽科卒業。NHK交響楽団の首席トロンボーン奏者を務め、指揮法・管弦楽法を近衛秀麿氏に師事。69年大阪フィルハーモニー交響楽団の専任指揮者に就任。大フィル定期演奏会ベートーヴェン「ミサソレムニス」で大阪文化祭賞受賞。ヴィエールフィルハーモニックを結成。71年ヴィエール定期公演で再び大阪文化祭賞を受賞。欧州のオーケストラ客演指揮。ルーマニア音楽祭ではアンコールが1時間にも及び、会場を興奮と感動の渦に包み込む。バレエ音楽の大作「ゆき女」など作曲、編曲多数。ウィーンフィル首席奏者など内外ソリストとの共演は数限りない。82年東京芸術音楽協会・フィルハーモニアTokyoを結成し「宇宿允人の世界」をスタート。その活動は多くのファンに支えられ、過去 115回のロングラン公演を成功。97年中国政府招聘による北京・人民大会堂公演では7千人の聴衆に多大なる感銘と衝撃を与えた。98年フロイデフィルハーモニーと名を改め、音楽芸術を通し全ての人にまっとうな心、感動する心、そして眞の愛と平和をめざし、その第一楽章を奏で始める。


  今や地球は、文明というエネルギー(武器)で異常ともいえるスピードで窒息寸前まで汚染され、文化、芸術という素晴らしい果実を味わう時間も与えず、ほんの少しの香りを嗅いだだけで無残にも押し流してしまった。
  第二次世界大戦後も休むことなく続いている戦争、やれ聖戦だ、正義だといっては生命や資源を破壊し、資本家はより豊かな社会、人類の平和といったうたい文句を唱えながら化学工場から汚染物質を吐き出す。政治不信、宗教界の縄張り争い、学歴偏重の教育、それは芸術の世界まで忍び寄り、テクニック先行、楽歴重視、コンクール盛況で必要以上の競争心を煽られ、創造し夢を持つ豊かな人格、そして一番大切な“愛する心”を持った芸術家を生み出す時間もないまま21世紀を迎えようとしている。
  人類(人間)は本質的には何ら他の動物と変わりなく、何時も群を成して動き、なまじ知恵がある為、学歴、肩書、名誉を重んじ、学校、社会(団体)と言う檻の中で命令され少々の競争心を煽られ、適当に褒められ適当に苛め、苛められることで心地良い刺激と満足感を覚えるものの様だ。それは子供から大人になり社会的地位が出来ると、益々エスカレートするのには驚きである。現在世界のトップクラスに踊り出た日本のエリート達、彼らは本当によく勉強しよく働いて来た。しかし人間にとって一番大切な美の世界、愛の世界をどこかに置き忘れてきたのに気付いているのはほんの僅かの人達のようだ。
  技術、機械化が完全発達を遂げた今日の時代にあって、人間がいかに正確にピアノを弾こうがアンサンブルの完璧なオーケストラ、明確な指揮技術など、もはや何の意味をもつものではない。ただ人間が持つ創造の世界、感情豊かな精神体験から生まれた人生哲学が聴衆の感性にふれ、演奏者と一体化した時、はじめてそこで作品は開花し、芸術が生まれるのである。そして演奏終了と同時に暗く遠い宇宙の彼方へと投げ出されたような孤独感の中に、作品は静かに花びらを閉じる。それは一つの生命が生まれ、また消えていく様に何億年にもわたって繰り返される宇宙のサイクルの原理と同じであろう。
  我々は、人間そのものが神から与えられた偉大なる芸術作品であることを決して忘れてはならない。何事も大きく考え、目先のことにとらわれ過ぎない様、そして心から愛し合う友を作ろうではないか……。
  「全ての人々は自然の乳房から歓喜を飲む、全世界の人々に接吻を、そしてきっとあの星空には愛する父、神が住んでいるに違いない、友よ! 全世界の友よ愛し合うのだ!」(ベートーヴェン 第9交響曲より)

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