レジャー研2004:外資系超高級ホテルの進出から見えるもの
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“外資系超高級ホテルの進出から見えるもの〜東京ホテル戦争〜”


□講師プロフィール
  近畿日本鉄道(株)入社後、都ホテル東京へ出向。宿泊フロント・予約・セールス各部門の課長などを歴任。85年(株)西洋環境開発入社、ホテル西洋銀座の実質的な立ち上げ人としてご活躍。宿泊支配人、販売部支配人、マーケティング部長、取締役支配人などを歴任。その後、岐阜グランドホテルを経て、98年(株)ロッテの顧問に就任。「ロッテワールド東京プロジェクト」のホテルグループリーダー。03年より武蔵野大学助教授に就任、現在に至る。




洞口さん

講師: 洞口 光由 氏

武蔵野大学人間関係学部助教授

■プロローグ


 近年の景気低迷にもかかわらず、東京には国内外の代表的高級志向ホテルが次々に開業しました。さらに、07年までに外資系ホテルが4軒、しかも「超高級ブランド」を有するホテルばかりが開業を控えている──こうした前代未聞の状況に、今東京はおかれています。これらホテルに共通することは、ボリューム的に限られた「トップ層」を主力ターゲットとしていることであり、「マーケティング力」「人的サービス」という面でも極めてレベルの高い熾烈な競争が展開されることでしょう。
 こうした「東京ホテル戦争」に向けて、日本の既存ホテルは何をしなければならないのか。また、ターゲットとなるトップ・マーケットのニーズを本当に理解しているだろうか──私が体験した具体的事例を通じて、皆さんに課題提起できればと考えています。


■トップ・マーケットのニーズとは?


 今、私の目の前にあるエビアンを事例に、一つのエピソードをご紹介しましょう。
 某外資系企業の会長が、日本航空のファーストクラスを利用していた時のこと。喉が渇いたので水が欲しいとリクエストしたところ、客室乗務員が持ってきたのはグラスについだ水でした。その応対に対する彼の返事は──私がいつもファーストクラスを利用しているのは、ゆっくり眠りたいからだ。グラスでは飲み残した水がこぼれやしないかと気になり、ゆっくり眠れない。ペットボトルの水はないのか?──つまり、ファーストクラスを常用しているようなお客様には“Too Much”なサービスは必ずしも必要ない。安眠の保証が優先されるようなサービスでなければ満足いただけない、ということなのです。
 実は、ホテル西洋銀座の設立準備に携わっていた時、最高責任者である堤猶二会長に私はこう言われました。「今日本に来ている国際エグゼクティブたちは、東京のホテルに決して満足していない。だから、そうした客層が満足するホテルを東京に作りたい」と。
 私にはその言葉の意味することが即座には理解できませんでした。があるとき、都ホテル東京の予約課長時代の一つの出来事を思い起こしました。ある夜、一人の外国人客が海外宛FAXの依頼にやってきました。当時、まだFAXは一般的ではありませんでしたが、断るのも気の毒だと思い業務用のFAXで送って差し上げた。すると驚いたことに、その日以降、同じようにFAXを依頼する外国人が、わざわざタクシーで乗りつけるようになったのです。理由を聞くと、滞在している国内高級ホテルでは、夜間はホテル内のビジネスセンターが閉まっているという。日本が夜間でも欧米がビジネスアワーであれば、FAXのニーズがあります。しかし、国際エグゼクティブをターゲットにしているはずのホテルですら、そうした彼らのビジネス環境への配慮に欠けていた。それを不思議に思うと同時に、堤会長の「決して満足していない」という言葉へとつながっていったのです。


■ホテル西洋銀座が目指したもの


 こうしてホテル西洋銀座は、トップ・マーケットに満足されるホテルを目指しスタートしました。トップ・マーケットとは、ハリウッド・スターや西洋ブランドの経営者等の国際エグゼクティブのことです。国際エグゼクティブのニーズを満たすような体制づくりを先につくること、それが堤会長の指示でした。“金にモノ言わせる”傾向の強い日本人客への対応は後からでいい。国際経験豊かな客層に訴えるサービス・マインドの習得に、まずは集中しろということだったのです。
 トップ・マーケットをターゲットにしていると、彼らのニーズを満足させられるだけのサービスシステムやノウハウ、人材が育ちます。彼らのリクエストを受けるスタッフは、そのニーズを高いレベルで満たさなくてはなりませんから、必死になって練習します。そして、実際にお客様とのやりとりを繰り返すこで洗練されていくからです。
 オープン最初のお客様は、女優のエリザベス・テイラーでした。彼女には大変満足して頂き、帰りには「このホテルは3本の指に入るわ」とお褒めの言葉も頂きました。一部屋につき1億円以上も投資していたので、私はてっきり設備の豪華さを誉めて頂いたとばかり思っていたのですが、後日彼女に近い方から教えて頂きました。「ハードがいくら立派でも、彼女の邸宅にはかないません。彼女はすごく居心地がいいと誉めていたのですよ」と。正直なところ、そう言われるのも当然という気持ちもありました。ホテル西洋銀座では、オープン前にチェックインなど技術的な研修は行わず、その代わりにホスピタリティを中心としたマインド研修を徹底していたからです。御三家ホテルにも見学に行き、サービスのレベルの高さに驚くこともありましたが、私たちは更にその上のレベルを目指したのです。











■ホテル西洋銀座の接客プログラム


私たちが作り上げたなサービス・プログラムには、次のようなものがありました。
◇お迎えは成田空港から始まる:
 提携アテンド会社のスタッフが、到着時に機内座席までお迎えに行き、手配していたハイヤーまでご案内します。ハイヤーの中では気の利いた音楽も重要です。例えば映画の宣伝で来日したオリバーストーン監督の場合、彼が制作した映画のBGMを彼がハイヤーに乗った時、ドライバーがカセットテープで流すのです。そしてホテルの近くまで来るとドライバーはホテルへ連絡(車内電話)します。そうすると、全員が玄関前に並んで「ウェルカム」と歓迎の意志を伝えることができます。客室でもやはり同じ曲が流れています。この時、オリバーストーン監督が私に言った言葉、それは“You are a nice guy!”でした。

◇一杯のコーヒー・サービスを有効利用する:

 ウェイクアップコールも有効なツールです。依頼があれば、必ず「翌朝コーヒーをお持ちしましょうか」と聞く。そして、翌朝は挨拶とともに、いつコーヒーを届けるか再確認し、指定の時間に部屋に行きます。そこで、確実に起きているかを確認できますし、さらに出発時間の再確認、変更への対応にも先手を打つことが可能になります。たった1杯のコーヒーで、起床と出発時間の確認までできてしまうのです。このようなサービス・プログラムを、滞在中のあらゆる場面で用意していました。

 こうして国際エグゼクティブへの対応を整えた後、最初に日本人客としてお泊まり頂いたのは、京都の老舗旅館の女将さんでした。堤会長からは、日本人の受け入れにあたり、「お客様の入込み方法や時間はもとより、宿泊目的まできちんと聞きなさい」という厳命がありました。そんなことを聞いたらお客様は怒ってしまうのではないか──女将さんからは息子さんの大学進学に伴う下宿探しだということを何とか聞き出せたものの、案の定、半ば怒りながら電話を切られてしまいました。
 当日、電話で確認した情報は全てのセクションに流れています。ドアマンは宿泊名簿と到着予定時刻から女将さんを特定できます。パーソナル・セクレタリーは、宿泊に関わる女将さんの情報を事前に全て調べておき、レジストレーションカードにはサインだけすれば良いようにしておきます。そしてエアコンの効いた客室には、すぐ食べられるように割いたメロンと、総支配人のメッセージを添えたフルーツバスケットを置いておきます。予定時刻にタクシーが到着するや、ドアマンは「女将様、お待ちしておりました」とドアを開ける。そして玄関では総支配人が出迎え、パーソナル・セクレタリーがキーを持って部屋までご案内します。そこで、「この度はおめでとうございます。4年間、楽しい思い出を作って下さい」と言ってドアを開けた瞬間、そこには周到に準備された部屋が目の前に広がっているのです。こうした一連の応対に、女将さんには「なるほど、あのとき予約内容の細微にこだわったのはこういうことなんですね」と理解していただけたましたし、大変満足してお帰りいただくことも出来ました。
 こうした徹底した予約対応は、ホテル西洋銀座は敷居が高いというイメージを作り上げ、良い意味で差別化する効果も生むこととなりました。


■トップ・マーケットにこだわる理由


 私たちがトップ・マーケットにこだわった理由は3つあります。
 一つ目は「お金に余裕がある客層は、値引きを要求しない」ということです。人気の外資系超高級ホテルを見れば分かるように、トップ・マーケット相手ではADR(平均客室単価)はアップします。この客層は料金を値切らない、つまり定価で売れるからです。
 利用者がトップ・マーケットから外れると、値引き競争が始まる──選択基準のウェイトがサービスの質より価格に傾くからです。当然ADRは下がり、客室稼働率を維持できたとしても収入は減ります。一方で清掃や光熱費などの維持管理費用は固定ですから、人件費を削って利益を確保しようとするため、従業員のモチベーションが下がるのです。現在、ホテルの仕事が3Kと言われるようになっているのは、ここに原因があります。
 二つ目は「ビジネスで頻繁に利用するため、一度気に入れば固定客になりやすい」ということです。ホテル西洋銀座のコンセプトは、「国際エグゼクティブにとってのオフィスと自宅を、東京の銀座に再現する」というものでした。そのため、ホテル業経験者はあえて採用しませんでした。なぜなら、国際エグゼクティブはその人自身が信用みたいなものですから、クレジットカードの番号を控える必要もなく、チェックインのテクニックの上手下手は関係ないのです。そのため、フロントカウンター自体が不要となりました。
 その代わりに置いたのがパーソナル・セクレタリーです。今で言うところのコンシェルジュですが、このスタッフが到着から出発までの全てお世話するのです。航空券の予約の再確認はもちろん、1日が終わったら、その日の行動を全てタイプに打ち出し、当日中に部屋に届けます。ゲストは客室で本国へFAXだけすればいい──滞在中は、毎日がこのように完結します。国際エグゼクティブは、このようなサービスに価値を見出してくれます。秘書を一人雇ったようなものですから、シングル4万8千円でも高いとは全く感じないのです。
 三つ目は「ホテルでの感動体験を、様々な場所で宣伝してくれる」ということです。トップ・マーケットを満足させられれば、自然とビジネスは連鎖・拡大していきます。
 ホテル西洋銀座では、他ホテルの手配も顧客サービスの一環でした。頻繁にそういった利用をされる客様を対象に400名限定の会員組織を作ったのです。入会金は30万円、年会費は12万円でしたが難なく完売です。ここで得た4800万円は、新しいサービスへの投資資金として有効活用します。例えば、ニューヨークの最高級ホテルを手配したお客様には、部屋にシャンパンとワインのセットを入れます。部屋に入ったお客様は、「ホテル西洋銀座から予約すると、どうしてこんなに対応がいいんだ!?」と驚き、感動します。ここで重要なのは、感動するのが国際エグゼクティブという点です。彼らは自らの感動体験を、必ず同業者に伝えます。その人が病院の院長であれば医師会などで、また大企業の社長であれば、同じ業界の社長さんたに自慢する。結果として、興味を持ったお仲間たちがホテル西洋銀座をどんどん訪れてくれるようになったのです。会員の中には、優秀営業マン賞を差し上げたくなるような顧客もいらっしゃった程です(笑)。


■なぜ外資系高級ホテルに人気が集まるのか


 さて、次に外資系超高級ホテルに目を移して見ましょう。皆さんには周知のとおり、この不況下においても高ADRで高い稼働率を維持しているホテルが多い。また、ライフスタイル専門誌やトレンディ雑誌でも大変高い評価を受けているのは、外資系超高級ホテルです。これまでトップ・マーケットに対応する上で、いかにマインドが重要であるかというお話をしてきましたが、それら高い評価を受けているホテルでは、まさに、スタッフのマインドが優秀なのです。心に響くサービスを心掛けているところ、そのためにマインドの教育をしっかりとやっているところが高い評価を得るのです。決してハードが立派だからではありません。良いホテルでは「伝説のサービス」と呼ばれるような、数々のエピソードが残されているのです。
 週刊ダイヤモンドのホテルランキングの記事でも、「なぜ、パークハイアット東京は、こんなにも評価が高いのか」という問いに、総支配人は「ゲストの心をくすぐる仕掛けがいたる所に凝らされている。それがパークハイアット東京です」と答えていました。リッツカールトン大阪の総支配人リバソン氏も同様の質問に対して「関西ナンバーワンの地位を盤石にした背景には、すさまじいまでのサービス改善に向けた執念がある」と言っています。これらの外資系超高級ホテルは、世界の主要都市で最高のお客様を招いている訳ですから、トップ・マーケットに対応できるだけの高度なサービスプログラムも予め整備されている──それが最大の強みとなっているのです。
 また、権限委譲≠ェ進んでいることも外資系超高級ホテルの強みです。日本のホテルのように権威主義が残っていたり、上司が権限を握って離さないといったことがありません。現場スタッフに権限が委ねられていないと、しばしばお客様は待たせられる≠アとになります。どのような客層にとっても待たせられる≠アとを嫌います。ところが、外資系では「あなたに責任と権限を与えるので、どうぞおやりなさい」となっていますから待たせる≠アとがない。
 たとえば、大阪のリッツカールトンで実際にあった話ですが、ベルガールがクロークで荷物を間違え、お客様を随分待たせてしまいました。相当機嫌を損ねてしまったお客様に対して、彼女はケーキショップに飛んでいき、5千円相当のケーキをラッピングして「お詫びのしるしでございます」と手渡したのです。すると、あっという間にお客様の機嫌が直ってしまった。日本のホテルではこうは行かないでしょう。上司の了解を取ろうとして余計に待たせてしまい、火に油を注ぐことにもなりかねません。
 それから、外資系ホテルでは「サインは人間」という言葉をよく使います。日本のホテルのように案内板を立てた方が親切という考え方とは対照的です。そのため、場所を尋ねられた時は人が案内板となって、最低3メートルは一緒に歩いてその場所を案内します。このようなことが、ちゃんとマニュアルにも書かれていますし、お客さんの立場に立ってきめ細かく実践されているのです。
 つまり、どんなに優れたリーダーが企業のビジョンが示し、戦略を作っても、最前線の多くの従業員が、日々お客様に良質なサービスを確実に提供していかなければ良いホテルにはならない。そのためには現場への権限委譲が重要であり、少なくとも評価の高い外資系ホテルではそれができている、ということなのです。


■「2007年問題」の真相とは


 では、今後東京で展開される超高級ホテル建設ラッシュのなかで、このような高レベルなサービスをどれだけ維持・拡大させていけるのか──実は「2007年問題」の真相とは、ヒューマンウェアの枯渇の問題なのです。
 これから東京に進出してくるホテルは、どれも超高級クラスばかりです。つまり、トップ・マーケットをターゲットにしていますから、それなりのノウハウとソフトは当然持っています。必要とされるのは、それを実行できるだけの豊かなマインドを持ったサービススタッフです。この人材をどれだけ確保できるかが課題なのです。私の試算では、これから数年間に1500人程度は不足するのではないかと見ています。
 実際、経験豊かでマインドを持った人達、特に新御三家などのホテルマンは次々とヘッドハンティングされています。外国人客の対応に慣れた大手ホテルでも、当然同じ現象が起きてきます。最近では若い人の頭の中には「終身雇用」という考え方はありません。条件の良いホテルがあれば、躊躇なくホテルを移ります。マンダリンに入ったとしても、3年キャリアを積んだらペニンシュラのコンシェルジュを目指そうと考えている人はたくさんいます。私もそういった考え方に賛成しています。


■日本のホテルは「東京ホテル戦争」にどう対処すべきか


 一方、日本のホテルは、なぜ外資に比べ低く評価されているのでしょうか。それは、いままでは右肩上がりの市場の中で、マネージメントがなくてもそこそこのお客が確保できたため、顧客を固定化するノウハウと経験が蓄積されなかったからです。
 また、業績拡大を前提に会社が運営されてきたため、社員の高齢化に連動して人件費も上がる仕組みになっています。ところが、今の時代は売り上げが変動します。それに合わせて経費も変動費化しなければならないのです。
 それでは、これにはどのような対処をすべきなのでしょうか。
 一つ目は、「雇用の二極化」あるいは「三極化」です。
 金銭管理を含めたマネージメントは社員が担当し、最前線で顧客のリクエストを処理するのは年俸制の契約社員に担当させます。さらにその下にはフットワークが良く、素直な学生アルバイトを配置するのです。その最前線には豊かなマインドを持った人を多く採用する必要があります。
 二つ目は、まさにヒューマンウエアの質の競争になりますから、常に人材を補給できるだけのネットワークを作ることです。仮に優秀な人材が抜けても、速やかに新たな人材の補充が可能なようにマネージメントを考えておかなければならないのです。
 三つ目に、マーケットがホテルを使いこなす時代ですから、どのようなマーケットをターゲットにするかを明確にすることです。これを曖昧なままにしておくと、サービスが過剰になったり、過剰な人員を抱えてしまう恐れがあります。
 四つ目に、個人主義の台頭で労働観が変化し、優秀な人材ほど定着率が低くなります。英語が堪能で豊かなマインドを持ったホテルマンほど、お金でヘッドハンティングされるということを念頭に置いておくことです。
 最後になりますが、今は少数精鋭の時代です。システム化すべきところは徹底的にシステム化し、人的サービスが必要な所には、徹底的に人材を投入するなどメリハリをつけるべきです。
 雇用が流動化し、能力のある人たちにとっては飛躍するチャンスです。働く側にとっては、もはや学歴をとやかく言われる時代ではありません。
 一方、ホテルをマネジメントする側も、顧客に支持されるホテルになるためには、もっと主体性を持ってコンセプトをアピールし、それに合わせたサービスメニューを提供していくべきだろうと思っています。


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