レジャー研2004:ウォーキングツアーの開拓が東京のインバウンドを変える!
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“ウォーキングツアーの開拓が東京のインバウンドを変える!”
                           
〜実践:『谷根千』ウォーキングツアー〜


□講師プロフィール
 (株)JTBの専属を経て、現在フリーの通訳ガイド。NHK学園英語講座監修の傍ら文筆活動でも活躍。SQUAREの連載「楽しくわかるニッポン通訳案内」でもおなじみ。(社)日本観光通訳協会元常務理事。UTS国際教育センター顧問。
 主な著書に「英語で紹介 ニッポンおもしろ再発見」「英語で笑う落語」「英語で案内するニッポン」など。
 ご自身のホームページ「中山幸男のニッポン通訳案内」にて独自のノウハウを公開中!
 http://www8.plala.or.jp/y-naka/




中山さん

講師: 中山 幸男 氏

通訳ガイド、ライター

■プロローグ(司会)


 ますます進むインバウンドのFIT化への対応として、ウォーキングツアーに注目して見たいと思います。中山さんは通訳ガイドとして27年のキャリアをお持ちであり、またご自身のホームページやTV番組、そして多くの著作を通じて、日本の魅力を英語で紹介する活動もされていらっしゃいます。そこで、まだ日本ではあまり馴染みのないウォーキングツアーの魅力とは何なのかをご紹介いただくとともに、今回レジャー研のためにアレンジしていただいた「谷根千(谷中・根津・千駄木)ウォーキングツアー」を通じて、コースづくりのポイントについてもお話し頂きたいと思います。


■何故いまウォーキングツアーなのか〜個人的な関心事にシフトするインバウンド


 私は通訳ガイドになって27年が経ちますが、この間、外国人が訪れる東京のスポットも随分と様変わりをしてきたというのが実感です。以前は、東京はおろか日本へ観光で訪れるには二つの障壁がありました。一つは“TOO EXPENSIVE”──これは今でもよく言われます。そして、もう一つは“TOO FOREIGN”──あまりに遠い存在だということです。少しは身近に感じる部分がないと訪れる気にはならない。しかし、昨今ではメジャーなガイドブックやインターネットで穴場的なスポットも画像付で見られるようになった。しかも、デジタルカメラの普及で一般旅行者が掲載しているものですから、余計身近に感じる人も増えています。また最近では映画『ロスト・イン・トランスレーション』で見た東京を体験したかったという外国人にも会いましたが、映画等の威力というのもあるでしょう。
 こうした具体的な情報が増えるにつれ、外国人旅行者の日本に対する関心事も、非常に個人的なものへと変わってきています。また、個人客、特に旅慣れた欧米の方々は歩くのが好きですから、日本人には日常的な風景や些細なことであっても、彼らには大変興味をそそる観光資源になったりもします。しかし、そうしたスポットにも個人では回りにくい場所もたくさんありますし、知りたいことがあっても外国語の解説もない……そこで便利なのがガイド付ウォーキングツアーとなるわけです。
 しかし、定期的なウォーキングツアーが東京にはほとんどありません。はとバスが催行している限定的なものだけというのが実情です。例えばロンドンでは、ウィークデーにも一日一社で15本ものウォーキングツアーがあり、しかも曜日ごとに内容がほとんど違っている。私はビートルズのゆかりの地を訪ねるツアーに参加したことがありますが、他にもパブ巡りのツアーなど豊富なメニューの中から自分の興味にしたがってツアーを選ぶことが可能です。交通渋滞にも巻き込まれない、また表通り中心のバスツアーでは見ることのできないスポットも訪れることができる──そんなウォーキングツアーが東京にも増えていけば、インバウンド・ビジネスも活性化していくのではないでしょうか。


■ウォーキングツアーに必要な“仕掛け”


 さて、このように個人的な関心事へシフトするインバウンドにウォーキングツアーが有効であるのは確かですが、帰国後も語り草になるような心に残る思い出、もう一度日本を訪れたいという気持ちにさせる仕掛けが、とても重要になってきます。
 後ほど「谷根千ウォーキングツアー」でもご紹介しますが、何よりも「街をストーリーで語る」ということです。ときには誤解されているような文化や歴史を要点だけでもきちんと説明してあげる。また、ストーリーは歴史性だけではありません。カラスがいれば大都会東京のゴミ問題に触れてあげるのもいいでしょう。そんな東京の生活と関連づけた話に外国人は大変興味を示します。
 また、地元の人と触れさせてあげること。下町の人情味溢れる人々と話してみたい──そんなニーズの橋渡しとなってあげるのです。早朝の市場や深夜の盛り場といった働いてる日本人、遊んでいる日本人との触れ合い・風景も思い出になります。仕掛けではありませんが、特にこういった早朝・深夜はそのスポットへ辿り着く交通手段もなくなりますから、ツアーとしてアレンジするのは有効だと思います。
 他にも歩いて回ると見えてくる、外国人にとっての潜在的な観光資源はたくさんあります。そういった視点で今回「谷根千ツアー」をアレンジしてみましたので、早速ご紹介してみたいと思います。



※ここから先の解説は、レジャー研で実際に使用した資料が画像付きでわかりやすくなっています。ここでは、コースづくりのポイントを強調して掲載します。


 今回は地下鉄・千駄木の駅からスタートしました。団子坂を上ると『森鴎外記念館』(現在、図書館)があります。日本文学入門を紹介する上で、他に夏目漱石、幸田露伴にまつわる施設もあり文学的な香りの高い地区でもあるのです。また、ここにあるイチョウの大木を使って、東京都の木であることや公害に強いことにも触れてあげます。次に、団子坂を下ると江戸っ子好みの堅焼きせんべいで有名な「菊見せんべい」があります。外国人が好きな抹茶味を店先で賞味できるのも楽しみです。また、この坂は三崎(さんさき)坂というのですが、東京では通りには名前がついていなくても坂にはほとんど名前が付いているということで、その意外性が喜ばれたりします。その先には千代紙の「いせ辰」やコーヒースナックの「乱歩」があります。江戸らしいものとして、千代紙以外にも「てぬぐい」は価格も手頃ですしお奨めです。また、ウォーキングツアーでは、休むというチョイスをお客さんに与えていくことも重要です。


 元々は川で文京区と台東区の区境でもある「へび道」を経由して、今度は根津の方へ向かいます。根津神社は家綱時代に創建された重要文化財で、その風情から日光の代役としてもお奨めです。お寺や神社の説明で大事なことは、歴史性だけでなく、どんなときに訪れるのかといった生活との関連性やお寺や神社の違いに触れてあげることです。そして夏目漱石の住居跡に立ち寄り、昼食を「夢境庵」というそばやでとります。おそばは外国人にも人気ですが、デジカメ持参のお客さんには絵になる特徴的なメニューを薦めてあげるのも一興です。デザートには、例えば「根津のたいやき」。“Japanese sweets”としても喜ばれますが、何よりもここのご主人が“名物”となっています。モンデール元駐日大使がひいきにしていたということで、その自慢話をしだすと止まりません。先ほども触れたように、話好きな下町の人との会話の橋渡しは大変喜ばれますし、魅力的な人との出会いは忘れられない思い出となります。
 外国人からは色々な質問をされますが、「東京には犬がいないの?」「食べちゃったの?」などと聞かれたりもします。つまり生活感を感じないわけです。谷根千は、そういう生活感や自然(根津神社の緑)をも体感できる非常に良い場所だと思います。
 そこから東へ向かうと弥生式土器発掘のゆかりの地があります。東京はそんなに古い町なのかと驚かれます。そこから北上し、何気ない下町の裏路地を散策するのですが、名所でなくとも、生活感や意外性で喜んでくれる外国人も少なくありません。また、タワーパーキングやガソリンスタンドの天井からぶらさがっている給油ポンプ、そんな風景も外国人には珍しく、カメラ持参の方へのユニークな被写体として教えてあげたりします。


 さて、さらに北上して「大名博物館」、江戸時代の時計が展示されています。そこからヒマラヤ杉を通過し、まだ現役で使われている民家の古井戸などが見られる裏路地を抜けると、「旧吉田屋酒店」があります。明治時代の酒屋さんで、今は下町の博物館として使われています。お酒に興味ある外国人は多いので酒樽や古い調度品について解説してあげます。そこから西へ向かうと銭湯があります。実は、「スカイ・ザ・バスハウス」というモダン・ギャラリーなのです。TVドラマ「時間ですよ」のモデルになった江戸時代から200年も続いた銭湯だったのですが、今では中はギャラリーです。ジャズの演奏をやったりもしています。こういった意外性も喜ばれます。
 さて、ここから徳川慶喜の墓もある「谷中墓地」を経由して、ハイライトとなる「朝倉彫塑館」に辿り着きます。東洋のロダンとも言われた朝倉文夫の旧アトリエを含む博物館です。彫刻の作品だけでなく、数奇屋風造りの建物や庭園が素晴らしい。ホームビジットもいいのですが、その時間がないという人には、ここの茶室や座敷に座って静かに庭園や池を眺める時間をつくってあげるといいでしょう。


 ツアーの最後に谷中銀座に向かいます。松嶋菜々子主演の「ひまわり」の舞台となった場所ですが、下町らしい昔ながらの賑わいがあるかと思えば、デザイン的に統一されたペーブメントなど歩いていても飽きません。ところで、この谷中銀座へは日暮里駅から向かうことも多いのですが、駅近くにはiマークの外国人向け観光地図があります。今東京の主要な観光スポットには、このような地図が増えてきていて、今自分たちがどこにいるのかを指し示す上でも便利になりました。ただ、イギリスではiマークのある所にはスタッフが常駐していており、同様のものだと勘違いされるケースもありますので、案内する際は要注意です。
 ところで今回のツアーの最中にも、ガイドブック片手に歩いている外国人をよく見かけましたが、圧倒的な人気を博しているのが「ロンリー・プラネット(東京)」です。アメリカ人を中心に、これさえ見ておけば、どんな所へ行きたいのか、どんなことを聞いてくるかということも予想がつきます。皆さんも是非コースづくりに参照されるといいと思います。
 以上、実際には2日かけて回るコース内容でしたが、まずは皆さんもご自身で歩いてみることをお勧めします。ツアーで疲れた後は、根津駅のそばに銭湯があります。番台には英語で湯への入り方の説明もあります。最後にそんな味付けをしてあげるのも気の利いた思い出作りになるかと思います。


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