レジャー研2004:Practical Travel Guideはこうして作られた!
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“Practical Travel Guide はこうして作られた!”
                       
〜変化する興味の対象:欧米人とアジア人等〜


□講師プロフィール
 1970年、旧運輸省所轄「JNTO」(特殊法人国際観光振興会)に入会。足掛け20年に亘りツーリスト・インフォメーションセンター(外国人総合観光案内所)にて、諸外国から日本を訪れた人たちに、日本の観光を主とする案内業務に従事。その後、ニューヨーク観光宣伝案内事務所次長、香港観光宣伝事務所所長を経て、2001年よりJNTO海外宣伝部次長にてご活躍。2002年7月に自己都合により一旦退職されるも、長年の現場経験をかわれ、現在も顧問的存在としてボランティアガイドの養成などにご活躍中。




末松さん

講師: 末松 睦子 氏

財団法人国際観光サービスセンター

■プロローグ(司会)


 末松さんは、JNTO(国際観光振興機構)在職中に、外国人ひとり歩き用案内リーフレット『プラクティカル・トラベル・ガイド』の作成にて、中心的な役割を担われました。一般のガイドブックと違い、旅行者の視点でテーマ毎にスポットをまとめるという、日本人が見ても大変興味深い内容となっています。そこで本日は、このようなガイドがどのようにして作られていったのか、また、TIC(ツーリストインフォメーションセンター=JNTO運営の外国人総合観光案内所)を通じた外国人旅行客の嗜好の変化などについてお話し頂きたいと思います。


■『プラクティカル・トラベル・ガイド』はこうしてできた


 ただいまご紹介頂いた『プラクティカル・トラベル・ガイド』は、TICが、これさえ持っていれば一人歩きができる≠ニいったものを目指し、文字通り「手作り」で作りあげました。
 私がJNTOに入ったのは大阪万博(1970年開催)の頃ですが、その頃は英語以外の特別な知識がなくても充分に外客の対応ができました。1ドルが360円の時代ですから、訪日客は皆お金持ちばかりで、食事も超一流のものばかり案内していれば良かったのです。
 ところが、次第に円高に移行してくると、いわゆるバックパッカーのような人が多く訪れるようになります。しかも、彼らは旅行者同士で頻繁に情報交換をしていて、普通の日本人でも知らないようなことを尋ねてくるのです。窓口は随分と混乱し、恥ずかしい思いもしました。しかし、今思えばこれらの質問が、私たちの貴重な情報源になっていったのです。
 さらに訪日客が増えてくると、「日光に行きたい」「浅草に行きたい」など質問がいくつかのパターンに分類出来ることに気がつきました。そこで、頻度の高い質問は、事前に回答を紙に書いて用意しておけば、案内業務の効率化にもサービス向上にもなる、そう思って作ったのが『プラクティカル・トラベル・ガイド』のはじまりでした。当時はまだタイプ打ちのもので、名前も「ミニガイド」と呼んでいました。


■日本人と同じことをしたい!


 最初に作ったのは「Tokyo Walks」だったと思います。その頃には円高が進んでいたため、安くて美味しく、しかも日本ならではの食事場所を案内する目的で「吉野家」の場所を手分けして探すようなことも行いました。経費も出ず自腹でしたが、「良いものを作ろう」という使命感がそうさせたのです。
 また、欧米の方々は「日本に来たら日本人と同じことをしたい」というニーズが強いため、サラリーマン向けのモーニングサービスやランチメニューなどを細かく案内したところ、かなり好評でした。
 今までに様々な方面やテーマのガイドを作りましたが、最も思い出深いのは「富士登山(Mt.Fuji &Five lakes)」です。自ら経験せずして良いガイドは作れないとうことで、自ら富士山登頂に挑戦しましたが、8合目付近で高山病にかかり泣く泣く断念しました。悔しい思いでの作成となりましたが、その後同僚が休暇を使って登山するなどして改訂を加え、立派なものができあがりました。先程中山さんが紹介されていたガイドブック『ロンリー・プラネット』では、「富士登山をしたい人はTICで、『Mt.Fuji &Five lakes』のガイドを入手せよ。そこには適切な出発場所、出発時間、登山方法、ご来光を見る方法などが事細かに記載されている」と絶賛に近い形で紹介され、大変嬉しかったことを今でも覚えています。
 また、無料もしくは低廉な料金で観光する方法も外客にとっては重要なテーマです。そこで、「Japan for Free」というミニガイドも作りました。例えば、貨幣博物館では1億円の札束を実際に持つことができます。日本科学未来館では、アイボや宇宙ロボット、日本のからくり人形などがたった500円で見られます。産業観光では自動車工場を見たり、ちょっと変わった所では、安藤忠夫など日本の有名建築家が建てた建造物を見たいという人も結構います。さらに、交通機関でも乗り降り自由の乗車券など、お得で便利な切符が登場するようになったのも良いことです。ただし、初期の頃はフリーチケット≠ニという名称が無料乗車券≠ニ誤解いされ、「フリーなのになぜお金を払わなければならないんだ!」という抗議めいた質問がかなりありました。最近ではワンデイ・パス≠ネどと名前が変わったので安心しています。(笑)

※Practical Travel Guideの一覧表は以下をご覧下さい。
 http://www.jnto.go.jp/eng/RTG/PTG/index.html


■興味の対象が異なる欧米人とアジア人


 さて、ではこのような日本観光へのニーズはどのように変化してきているのでしょう。欧米人とアジア人の興味の対象はかなり異なりますし、最近の訪日外客の動向とも関連してきます。
 そこで2003年に海外から日本を訪れた人の内訳を見ると、今や韓国、台湾、中国本土、香港からの観光客が全体の62.9%を占めるようになりました。英語だけではなく、韓国語や中国語の案内表示も必要不可欠という時代なのです。また訪日外国人観光客の53%近くの人が東京を訪れます。多いのは韓国、米国、台湾、中国、香港の順です。
 人気のスポットは、新宿、銀座、渋谷、お台場、原宿、六本木などで、中でもお台場は超人気です。欧米人の人気ナンバーは、意外にも築地の魚市場。皇居広場前の散策と東御苑なども人気があります。




 外国人が観光地としての日本に期待するイメージは、国によって相当違います。特に欧米とアジアでは正反対とも言える状況です。欧米の方々は、日本の伝統的なものを好む傾向が強く、しかも歩いて回る観光が好きです。相当な距離でも平気で歩いてしまいます。その対極にあるのがアジアからの人々──新しいもの、都市観光(特定地域内のそぞろ歩き)、ショッピングを好みます。また体験でもエキサイティング≠ネ体験、例えば、震度7を体験できる池袋の防災館、風速数十メートルの暴風雨が実際に体験できる本所防災館、このようなハイテクを駆使したエキサイティングな場所を好みます。
 また、私が90年代の後半にJNTOの香港事務所にいたときには、香港の若い人たちが日本に強い憧れを持ち、日本文化が香港中を席巻していました。日本名のお店が立ち並び、日本の雑誌が売られ、ビル丸ごと日本の商品だらけというところもありました。日本の人気TVドラマやアニメなども人気で、まさに日本ブームという状況でした。そして、今でもその熱は冷めていないようです。彼らは新しい情報にどん欲で、新しいスポットができるとすぐにツアーを組みます。日本で流行っているものをほとんど知っている彼らは、情報誌などを手がかりに訪日しますから、TICにはなかなか立ち寄りません。全て自分で調べて行動します。交通網が発達している東京では、目的地にたどり着くことはさほど困難ではないようですが、地方都市では新聞や雑誌の切り抜きを持って「ここに行きたいのですが…」と案内所を訪れることもあります。


■こんな体験が心に残る


 このように観光ニーズは様々ですが、もう一度日本を訪れてみたいと思う思い出は、やはり日本ならではの文化や風習に触れる体験であることに違いはありません。
 例えば、『ロンリー・プラネット』では、かなり詳しく銭湯≠描写しています。銭湯はコミュニティの人たちが集まって、素っ裸で雑談することでリラックスできる場所なので、大変良い雰囲気の中で日本人を知ることができるよ、といった具合です。特に多くの訪日客にとって、靴を脱ぐ≠ニいう行為そのものが異文化体験であり、銭湯で靴を脱いで、それを下駄箱にしまうということだけでも、魅力に感じるのです。
 それと、温泉は今や必要不可欠なアイテムになりつつあります。香港・台湾の人たちにも、裸で温泉に入ることに抵抗のない人が増え、香港発のツアーでは露天風呂がなければ集まらないほどになりました。また、有楽町のガード下の赤ちょうちん≠ノ行く人もいます。その雰囲気を楽しみたい、日本のサラリーマンと同じ体験をしたということが、忘れられない思い出になるのです。
 また、「一度でいいから新幹線に乗りたい」というニーズも根強いのですが、どうしても高い運賃がネックとなってしまいます。そのため、小田原まで片道利用をして、帰りは普通列車といった工夫もしています。『ロンリー・プラネット』が紹介する駅弁を食べたという体験があれば、さらに大満足なのです。
 「大江戸温泉物語」という比較的新しいスポットがありますが、入場料が2900円もしますから、欧米人はあまり行きたがりません。なぜなら、日光までの往復でも一番安い方法を使えば2800円程度で済んでしまうからです。時間が掛かっても、そこまで行ったという体験を大事にするのが欧米人の旅行心理なのです。
 ですから、お茶、生け花、焼き物、紙漉などを体験したい人はたくさんいます。異文化を体験できるのであれば全てが興味の対象となります。朝の通勤ラッシュでさえ土産話になるらしく、押しやさん≠ェ一生懸命に乗客を押し込んでいるところを写真を撮りに行く人もいるぐらいです。


■流行っていること、流行りそうなこと


 このような体験素材は枚挙にいとまがないほどですが、最後に香港発・韓国発ツアーの現状をご紹介したいと思います。
 香港からの訪日客は、ビザなし渡航が解禁になったこともあり、かなり増えています。個人で来る人は、基本的にホテルと航空券だけを手配して、あとは自由にやるというタイプです。旅費は3泊4日で5万円前後が主流です。一方、高級志向のツアーも人気で、しかも成熟化しつつあります。私が香港にいた頃は、高級ツアーはほとんどありませんでしたが、今では「北海道美食の旅」とか「カシオペアで行く北海道」など、30万円近い価格のツアーがいくつも登場しています。
 韓国では、昨年から売り出された3万円の1泊3日ツアーが大人気です。金曜日の夜に仁川国際空港を飛び立って、土曜の未明に羽田に着きます。その日は都内に1泊して、日曜日の深夜に羽田を出発し、月曜日の朝そのまま職場に行くのです。このツアーは夜中に動き出すので、お化けツアー≠ニかホタルツアー≠ネどと呼ばれているそうです。
 では、そんな香港・韓国人の間で今後流行りそうなこと、そのための“しかけ”にはどんなものがあるのか──やはり、いかに低価格で異文化体験を満喫できるかが鍵になると思います。
 例えば、香港のある新聞社から、カップルに浴衣を着せて花火大会に連れて行くというツアーを企画したのでレンタルの浴衣を探して欲しいと言われたことがありました。しかし、浴衣は汗を吸うものなのでレンタルはしていないのです。浴衣は買うと2万円はするものなので、これがネックとなってその企画は断念しました。しかし、今年からユニクロで浴衣と帯のセットを3990円で発売を始めました。こういったことが契機となって、また新しい形のツアーが生まれそうな気配がします。しかも、東京には格安で舞妓さんや芸者さんのメイクアップや衣装一式の着付をする変身スタジオというのもあります。こういった所を上手く利用することが、訪日客に満足される新たな企画へとつながっていくのではないでしょうか。


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