レジャー研2005:フォーシズンズホテルのホスピタリティー
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フォーシーズンズホテルのホスピタリティー



講師: 塩島 賢次 氏

フォーシーズンズホテル椿山荘東京
執行役員・総支配人




■はじめに

 昨今、東京のホテル客室の供給過剰を懸念する「2007年問題」が声高に叫ばれています。外資系の超高級ホテルの開業が相次ぎ、旧来のホテルもリノベーションが盛んに行われています。しかし、「2007年問題」を悲観的に捉えるのではなく、東京というマーケットはそれだけ需要が喚起できる余地が残っていると理解すべきでしょう。私たちは東京の中だけでお客様を奪い合っているのではなく、アジアの各都市と競争しているというのが現実です。各ホテルがホスピタリティーを発揮し、東京全体の魅力を高めていくことこそ大切ではないでしょうか。
 今日は「フォーシーズンズホテルのホスピタリティー」というテーマで、当ホテルのハードに対するこだわり、「ゴールデンルール」に象徴されるサービス哲学、人材育成も含めたスタッフへのきめ細やかな配慮、こういったホテル運営のコンセプトについてご紹介させて頂きます。多少なりとも皆様の参考になれば幸いです。
■ブランドは進化しない限り陳腐化する


 現在、フォーシーズンズホテルは全世界の28カ国に65個所ありますが、お陰様でそのいずれもが第三者から高い評価を得ています。
 例えば、ニューヨークの金融雑誌「Institutional Investor」誌は、全世界のホテルを65泊以上する人たちを対象に調査し、「The World Best Hotels」というランキングを発表しています。当ホテルは2003年のランキングでは第9位、2004年も13位と2年連続して上位に入ることができました。これはフォーシーズンズホテル全体の総合力がもたらした結果とも言えます。昨年はフォーシーズンズ・ジョルジュ・サンク・パリの1位を筆頭に、30箇所近くが100位以内に入っているのです。
 しかし、ブランドは進化し続けなければ、いずれは陳腐化してしまいます。多くのフォーシーズンズホテルが高い評価を受け続けているのは、ハード、ソフト、スタッフの教育、その全てにおける絶え間ない品質向上努力の成果なのです。
 合い言葉は「RAISE OUR BAR GLOBALLY!!!」――これは私たちのサービスのレベルをグローバル・スタンダード≠ノ置こうという意味です。絶対に越えられるという自信はなくても、目指すハードルは世界水準に置き、それに向かって一生懸命に頑張ろうという姿勢が、高い評価を受け続ける原動力なのです。


■時代を先行するハードの進化


 それでは、まずハード面についてご説明しましょう。
 「常に時代の最先端を行くサービスを提供すること」――これがフォーシーズンズホテルの不変の哲学です。
 最新の情報を仕入れるため、2年に1度開催される全世界の総支配人会議では、最も新しくできたホテルについての情報交換を怠りません。
 当ホテルも開業13年目にもかかわらず、ベッドを全て新しく入れ替え、リネンやグラスなども新調しました。もちろん、全て一級品ばかりです。大型液晶テレビや、光ファイバー回線も全客室および宴会場に導入しました。
 ハード全体におけるフォーシーズンズホテルのコンセプトはヨーロピアンエレガンス≠ナす。しかし、壷や絵などの美術品をご覧頂ければ分かるとおり、内装に関してはオリエンタル調で統一しています。西欧調というグローバルを意識しながら、日本ならではのオリエンタルなテイストを提供することにこだわっているのです。当ホテルは都心の他のホテルに比べてロケーション的に不利な面がありますが、東洋と西洋の雰囲気を上手く調和させていますので、逆にここでしか味わえないゆったりとした雰囲気を感じて頂けるものと思います。

■常に変わることのないソフト


 一方ソフト面では、当ホテルでは2001年に、自分たちのサービスカルチャーを表す言葉を「
S-E-R-V-I-C-E」と定めました。これは極めて基本的なことではあるけれど、しかし時に忘れてしまいがちなこと、そのような7つの英単語をキーワードに作った言葉です。
 「いつも笑顔で(Smile)、お客様の目をちゃんと見て接しよう(Eye)、お客様を名前でお呼びしよう(Recognition)、従業員同士は声に出してお互いに意見を言い合い、お客様にもはっきりとお伝えしよう(Voice)、みんなで情報を共有化しよう(Informed)、清潔にしよう(Clean)、一人ひとりが役割を果たし、全員でホテルを正しい方向に持って行こう(Everyone)」――これらの意味が「S-E-R-V-I-C-E」に込められており、これが従業員の意識の根幹に位置しています。
 また、これを基本として各年度毎のミッション・ステイトメント≠同じように英語のキーワードで定めています。(図参照)
 ソフト面における具体的な行動様式は、スタンダード≠ニ呼ばれるマニュアルによって定められています。これは世界中のフォーシーズンズホテルが、共通して守るべき最低限のルールを決めたものです。
 代表的なスタンダードを紹介しますと、




ベル係はお客様が客室に入室後7分以内に荷物を届ける。
レストランでは笑顔とアイコンタクトで積極的にゲストをお迎えする。また親しみやすくはっきりとした言葉遣いで話す。
レストランではジュース、コーヒー、紅茶はゲストが席についてから2分以内にサービスする。

 これ以外にも、「グルーミング・スタンダード」では、スタッフが守るべきふさわしい身だしなみ、たとえば髪の長さ、装飾品の許容範囲、服装の清潔さなどを定めています。
 また、当ホテルはわずか283室ですから、お客様を固有名詞である「お名前」でお呼びすることもスタンダードの一つです。たとえば、クレジットカードを利用されればお名前は分かりますから、「吉田様、ありがとうございました」とさりげなく名前を付け加えます。「お客様のことはしっかり認知しています」とアピールすることは顧客化≠フためには非常に重要なことです。
 そして、これらのスタンダードは「Guest Satisfaction Survey(顧客満足度調査)」や「覆面調査」によって遵守状況がチェックされます。
 「Guest Satisfaction Survey」は、ゲストコメントカードを点数化して評価します。「Exceeded(期待以上)」が100点、「Met(期待通り)」が75点、「Did not Meet(期待以下)」が0点と非常に厳しいものです。
 また、これだとお客様の主観によってバラツキが出ますので、より客観的な評価が期待できる「リッチサーベイ」という覆面調査も利用しています。
 これは数名の覆面調査員が2〜3日滞在し、先程のようなスタンダードができているかどうかを全て「イエス・ノー」でチェックします。ここではかなり特殊なリクエスト、例えばバンケットを予約後に突然キャンセルした時の対応などもチェックされます。直球だけではなく変化球への対応力も見られるわけです。
 更に、これに加えて「STAR(Standard・Testing・Awareness・Recognition)プログラム」を実施し、自ら課したルールが守られているかどうかを、従業員同士で確認しあうことも行っています。
 以上のように、様々な手法を通じてスタンダードを徹底し、サービスのレベルアップを図っているのです。


■さらにご満足頂くための機能


 さらにお客様に満足して頂くためには、情報ツールも有効な手段です。
 まず、一度お泊まりになったお客様には、必ず1枚の「ヒストリー」ができます。そのとき何が起こったのか、何がお好みでどんなご要望があったのか、これらを「滞在の履歴」としてコンピュータに記録しておくのです。日頃読む新聞名、喫煙の有無、好みの枕のタイプ、加湿器使用の有無、アレルギーの有無、こういった情報は次回のお泊まりの準備に必要不可欠な情報だからです。
 そして、単に履歴だけではなくお客様の現在の状況まで管理し、その情報を館内のスタッフ全員で共有する仕組みが「QAM(=Quick Action Memo:館内情報共有システム)」です。
 チェックイン時にお客様からお申し出いただいたことやレストランの予約状況、更には不手際によってお客様の機嫌を損ねたといったこと、こういった情報を一人ひとりのスタッフが把握しておけば、お客様に一歩先回りしたサービスが可能となります。
 たとえば、ルームサービスで朝食を召し上がって頂いた際に、料理が冷めていてお客様からクレームが出たとします。お詫びにフルーツなどを差し上げ、とりあえずご容赦を頂くのが一般的な対応ですが、チェックアウトの際に「朝食では大変ご迷惑をお掛けしました。これに懲りず次回も是非お越し下さい」と一言付け加えれば、お客様の受ける印象はかなり違ってきます。「お客様のことはしっかり見ていますよ、次は間違いのないように対応しますよ」という強いメッセージになるのです。


■“ゴールデンルール”


 しかし、マニュアルとは最低レベルのルール化に過ぎません。お客様がハイレベルになるほど、リクエストも高度で多様になります。マニュアルで対応できるのは恐らく50%程度で、残りはスタッフが与えられた権限の中で対応せざるを得ません。つまり、お客様に満足して頂くためには、スタッフへの権限委譲が不可欠なのです。
 私たちは、マニュアルで対応できない時は、「always think customers first」、まずお客様のことをを第一に考え、お客様サイドに立ったサービスをするように心掛けています。自分がもしお客様の立場ならどんなことを望むのか、どんなサービスを要求するのか、それが判断基準になるのです。
 己の欲するところ他人に施せ=\―これがフォーシーズンズホテルが持つ不変のルールであり、「ゴールデンルール」と呼ばれるものです。
 しかし、マニュアルを一度決めてしまうと、ともすればマニュアル優先の発想に陥りがちです。そうなると余計な力が入り、不自然で窮屈なサービスになってしまうものです。私はよくお客様に、「Call us home――まるで自分の家にいるのと同じように、どうぞくつろいで下さい」と申し上げます。くつろぎたいお客様にとって、かしこまったサービスは不自然です。ですから、自然であって、なおかつお客様の状況に合わせて自在に対応できる気遣いと行動が、まさに「ホスピタリティー」なのではないでしょうか。
 富士ゼロックスの小林陽太郎会長は「ホスピタリティー」のことを、自然で自在な気遣い≠ニ和訳されていますが、私もその通りだと思います。この自然で自在な気遣い≠実行するためにあるのが「ゴールデンルール」なのです。
 更に「ゴールデンルール」の中には3つの言葉があります。

『Always answer with a “yes ”』――

「できませんとは言わないこと」です。例え要求が物理的、構造的に不可能であっても、まず「分かりました」と返答してから、「ただし、このような内容でいかがでしょうか」と提案するのです。100%の回答ができればそれに越したことはありませんが、駄目でも可能な限りお客様の要望に近い回答をご用意しよう、その前向きな姿勢が「Yes」なのです。
『Do that little bit extra』――

「期待以上のサービスをします」ということです。先程「期待通り」は75点と申し上げましたが、お客様のリクエストに「はい、やりました」というのは、この75点です。ですから、100点のためには、お客様が望むことよりもほんの少しでも先回りしなければなりません。
 例えば、バレンタインデーの直前に「このチョコレートの賞味期限はいつまでですか」との質問があれば、お客様はバレンタインデー当日に開封することを前提で聞かれているわけですから、「3ヶ月間は大丈夫です」ではなく、「2月14日でしたら、このような状態でお召し上がり頂けます」と答えるべきです。これがお客様の一歩先を行く発想なのです。質問の裏に隠れた真意を察知して回答しなければ、お客様に本当に喜んで頂くことはできません。
●『One goal one team』――

「チームが一丸となって同じゴールを目指そう」ということです。ホテルの中には色々な職種や身分の人が働いていますが、そういったものとは関係なくチームワークを大事にしようという意味です。

「Going Extra Miles」――期待以上のおもてなしを創り出す


 もう一つ、お客様に本当に満足して頂くために必要なこと、それは期待以上のおもてなしです。ちょっとした仕掛けや気遣いをお客様の目に見える形にして提供すれば、お客様の満足感を高めることができます。
 たとえば、雨の日にジョギングをされて帰ってこられた方には水とおしぼり。雨の日には必ず玄関には靴拭きとタオルを用意する。フィットネスジムは24時間営業しています。成田空港にスタッフを常駐させ、移動手段のご案内や両替の立て替えなども行います。それ以外にも、全室ハンズフリーフォン、無料シューシャインサービス、ご出発時のミネラルウォーター・サービス、バレットパーキングなど…。
 そして、私たちのサービスの神髄だと言えるのが「Get well Amenity」です。ちょっと気分がすぐれない、または少し風邪気味かもしれないというお客様がいらした時、自主的にルームサービスがアメニティーをお届けするのです。しかも、看護婦の格好をしたテディベアのぬいぐるみをセットし、蜂蜜、ハーブティー、ジュースにお花を添えてお持ちする。そんな心配りと意外性がお客様には大変喜ばれます。 
 意外性ということでは、あるビール会社のトップがお見えになった時に、楽しい雰囲気を作ろうと、チョコレートでビール瓶を作ったことがあります。シェフも大乗り気で、瓶だけでなくキャラメル製のビールが勢いよく飛び出している様子を作ってくれたのです。私自身が期待していた以上の仕上がりになりました。自然と明るくなるようなアメニティーも、ホスピタリティーの重要な要素なのです。
 “Going Extra Miles(期待以上のおもてなしを創り出す)”――そのためにはお客様のニーズを予知し、様々なものを準備しておかなければなりません。お客様とどこかで関連性のあるもの、ストーリー性を感じるもの、こういったものがお客様にとても良い印象を与えることができるのです。


■フォーシーズンズホテルの『3P』


 さて、実際にお客様にサービスを提供するのは、我々マネージメントではなくスタッフです。いくらマネージメントが立派なことを考えても、スタッフたちが今まで述べてきたようなことを、きちんとやってくれなければ意味がありません。つまり、人材の育成とスタッフ・モチベーションがとても重要になるのです。
 ですから、会社の計画を考える時、「ピープル」「プロダクト」「プロフィット」のいわゆる「3P」の中で、必ず最初に来るのは「ピープル」、すなわち「人」です。どの階層の教育を強化するか、誰を後継者に育成するか、そういったことをまず最初の経営課題として認識するのです。
 また、優秀な人材を育てようとすると採用から関わるざるを得ません。アルバイトも含む全ての採用は、総支配人とホテルマネージャー面接を含めて4回もの面接を行います。
 そして、外資系のホテル全般に言えることなのですが、誉めることが非常に上手く、表彰制度が充実しています。当ホテルでもフォーシーズンズホテルのスタンダードに則り、全スタッフを対象とした月1回の「Employee of the Month(優秀従業員表彰)」、マネージャークラスを対象にした四半期に1回の「Manager of the Quarter(優良マネージャー表彰)」を選出しています。
そして、各部門毎に年間優秀者も決定します。この部門表彰者には、ゲストコメントカードで1位になったとか、お客様から何度も名指しで感謝された、リッチーレポートの点数が良かったなど、いろいろな角度から選びます。とにかく、何かと理由をつけては表彰しているのです。
 なかでも「What ever it takes(ゲスト対応優秀表彰)」では、ゲストコメントカードに具体的に名前を書かれた人を、その都度表彰しています。たとえば、「遠藤さんの素晴らしいサービスのお陰で、本当に素晴らしい記念日になりました」などと名前が書かれていたら、翌週すぐに会議に呼んでその場で表彰するのです。賞品はホテルのマーク入りの、それ程高価なバッジではありませんが、表彰者の誰もが誇りを持って胸に着けてくれるほど価値あるものです。


■“We are on the same Boat!


 さらに、スタッフのモチベーション・アップのためには、スタッフの話に耳を傾けることもとても重要です。
 総支配人、ホテルマネージャー、ライン・スタッフだけの「ダイレクトライン・ミーティング」では、ホテルや上司に対する不満も含めて、何を言っても良いことになっています。私たちはこれを「Open Door Policy」と呼んでいます。
 また、ダイレクトラインで出された意見には、必ず担当部署から返事を出します。結果が見えるということは、本人のモチベーション・アップにとても有効なのです。
 そして、私とスタッフとの距離はできるだけ縮めたいと思っていますので、550人近いスタッフ全員に必ずバースデーカードを書くことにしています。例えば、結婚したばかりのスタッフに対しては「結婚おめでとう。自分の肌に合う人との出会いは、その後の人生を素敵で楽しいものにする。」などと、一人ひとりの状況に応じて肉筆でメッセージを書き添えています。そうやって私を身近に感じて貰うようにしているのです。
 時には従業員と一緒になって、馬鹿騒ぎして楽しむこともあります。忘年会や夏のパーティでは、写真のように私自身もエルヴィス・プレスリーに仮装したりして、とことん楽しみます。これには明るく楽しく元気よく≠ニいう意味での景気づけと、私が直接スタッフの労をねぎらいたいという気持ちも込めています。
 繰り返しになりますが、ホテルには様々な役割を担う人資源が欠かせません。“We are on the same Boat!”――これは当ホテルのCEOであるイザドア・シャープの言葉ですが、みんなで同じ方向に力を合わせて漕いでいこう、一人でも漕ぐことをやめたり、逆に漕いでしまうと決して目的の港には着かないという意味と理解しています。全員が力を合わせて地道に取り組んでいけば、やがては大きな力になると信じて、今後もホテルの運営をしていきたいと思っています。

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