レジャー研2005:プロジェクト報告
TOP >> SEMINAR >> レジャー研 >> プロジェクト報告 
“快適生活追求”時代のホテル産業




座長: 中野 隆雄 氏

藤田観光労働組合



■プロローグ:
 サービス二極化の時代へ


 競争社会と言われて久しい現在ですが、ホテル業界も例外ではありません。外資系を中心とした新規豪華ホテルの建設ラッシュに加え、近年ではスーパーホテル等の新しい形態のホテルも続々と登場し、熾烈な競争が続いています。また、一方ではメーカー企業を中心とした異業種も、自らの商品やサービスでいかに人々に快適な空間と時間をアピールできるかということに知恵を絞り始めています。まさに、ホテル産業が得意とする領域に、かたちは違えど、様々な業種が触手を伸ばしていると言っても過言ではないでしょう。
 この間を振り返ると、長引く不況のなかで、ホテル産業界では収益構造の大胆な見直しが図られ、労働環境も随分と様変わりをしてきました。情報化の急速な進展も相まって、合理性や効率性を追求する企業が拡大し、“人を使わなくても済む”ビジネスモデルも次々と世に送り出されました。しかしその一方で、人資源を大切にし、なおも収益が出せる──“人がいるから成立するビジネス”を考え、成功している企業もたくさんあることを忘れてはなりません。実際のところ、突き詰めればこれからのホテル産業は、このどちらかを選択していく、サービスの二極化時代へと進むと見ていいと思います。

■人々の価値観も十人十色〜ターゲットの絞込は必須に!


 では、人がいるからこそ成立するサービスとは何なのか。職務別に見るのではなく、こんな“場面”ではお客さんとの接点に必ず人が介在する──そんなメリハリのある人的サービスが自らの優位性を高め、価値を生み出していくという考え方がますます重要になっています。しかし、海外旅行をはじめ様々なサービスの経験値が高まるなかで、何に安心や快適性を感じるかは十人十色。八方美人を目指すのではなく、自らが得意とする市場(客層)を特定していくことが不可欠な状況となっているのです。
 昨今評判の外資系ホテルのような客室数なら思い切ったこともできるけど……そんな声も聞こえてきますが、人気ホテルの利用者すべてが特定顧客の資質を備えているとは思えません。そこに集まる客層やスタイルに憧れる層がサブマーケットとして生まれている、しかもかなりの数になっているかもしれない、そんな見方もできると思います。
 憧れであれ、安らぎであれ、ホテルが提供する商品(サービス)とは、また次も訪れたくなる“おもてなし”や“感動する体験”であることに変わりはありません。ただ、ホテルがお客さんを選別するのではなく、人々の価値観が多様化するなかで、“選別される”立場となっている。そのような環境変化を見落としてはならないのです。
 当プロジェクトでは、私たちの産業を取り巻く課題の中でも、こうした人々の価値観の変化に注目し、その上でホテルという空間はどう活かすことができるのかを再整理してみることとしました。もちろん、全ての要素を取り込まなければいけないという趣旨ではありません。それぞれのホテルが独自のコンセプトやスタイルを築いていくための、議論・参考資料として見ていただければと思います。


■キーワードは“快適性”



事務局長: 安岡 重人 氏

全日空ホテルズ労働組合


 では、報告書のポイントを順を追って報告させていただきます。
 当プロジェクトでは、人々の価値観の変化を探るために、過去1年間の新聞記事や業界紙等から主な記事をピックアップし、そこから浮かび上がってきた“快適性追求”志向を軸にキーワードマップを作成してみました。具体的には、一昨年前にこの場で発表された旅行業のプロジェクトのマトリクス分析も参照しながら、別表のような大きな潮流、そこに顕在化しつつある人々の志向、さらにその具体的な行動や意識の変化を、快適生活という視点からまとめ上げたものです。高度情報化を例にとれば、リアルタイムな情報に効率的に接したい人もいれば、じっくりと人を介した情報のやりとりをしたい人もいる。どちらが良いかではなく、人によって何に快適性を感じるか、言葉を変えれば何に価値を見出すようになってきているのかがわかるように整理しました。


 次に、それらの要素にホテルはどう応えていくべきかを考えるために、現状のホテルの利用実態を再整理するという作業を行いました。特定階層だけを相手にしていた時代と違い、実に様々な目的でホテルが利用されていることがわかります。しかし、表面的な利用目的は変わらなくても、その中身が変化してきている。同じブライダルであっても、昨今では新郎新婦がゲストをおもてなしするホームパーティ形式が増えていたり、またその舞台も重厚な宴会場というより邸宅風が好まれるようになっている。そんな風に、それぞれの項目を先に述べたキーワードマップと照らし合わせながら、新たな視点で考えていただければと思います。
 さて、これらのマップや表からは膨大な数の新たな視点が生まれてきますが、プロジェクトの中で特に時間を割いて議論をした事柄が6点あります。概要は以下のとおりです。

@point:リゾートの視点で考える


 “リゾート”には、気候や景観、歴史的伝統など立地の魅力が不可欠です。しかし、それだけでは不十分で、訪れた人を心地よく包む“おもてなし”もリゾートの絶対的構成要素となっています。“リゾート”が本来意味する“度々訪れる場所”という視点にたてば、そうした魅力の重要性にも納得できることでしょう。そんなリゾートの快適性は、今では決して固有な事柄ではなく、シティホテル、ビジネスホテルでも活用できる要素を包含しています。
日常から離脱して、何日間かだけ豪華/贅沢なな生活を享受する
近代文明に溢れた日常からの離脱する──昔の懐かしい日常への回帰
アーバンリゾート型──遊・学・憩といった、あって欲しい要素や情報が、あるべき所に備わっている利便性や回遊性を重視

 一方、訪れる人の日常や価値観が時代とともに大きく変化していることも忘れてはなりません。お金ではなく思い切り時間を消費できることが最大の贅沢と考える人。また、凝ったレシピや素材よりも、素材の持ち味や体に優しいメニューに価値を見出す人。そんな“非日常”の姿も現代では少なくないのです。
 顧客の階層だけで判断するのではなく、そんなリゾートの視点で、顧客に合った快適な空間や時間を考えてみることが重要です。


Apoint:“ヒューマンタッチ”が新鮮!


 日本のホテル産業は、東京オリンピックを皮切りに、大阪万博、沖縄海洋博といった大型の国際イベントの開催をきっかけに発展してきました。さらには、高度経済成長に伴う旅行の大衆化も手伝って、ホテルのチェーン化やスタンダード・サービスのマニュアル化など、どちらかといえば効率性を重視した運営が数の上では大勢を占めながら現在に至っていると言えるでしょう。
 そうしたサービスのマニュアル化は、今ではレストラン・外食チェーンにも蔓延し、どんな顧客にも同じ対応を行う店があふれかえっています。凝った料理も然り、ホテル以外でも高級料理を食べられる店はいくらでもあります。しかしながら、自分のためにここまで気配りしてくれていると思わせるホテルやレストランは少ないと言わざるを得ないのが現状です。このようなサービスの画一化・同質化、そして情報化が進展するにつれ、人がパーソナルに接してくれることに価値や新鮮味を見出す人が顕在化してきています。
 振り返れば、ホテルにおいては日本旅館同様、賓客をお迎えするパーソナルなおもてしが最も重視され、日本人が欧米のフォーマル・マナーを学ぶ場としても機能してきました。オーナー色が濃く、産業化することよりも、特定の顧客だけを相手にする社交の場としてホテルを所有することに価値を見出していた時代の方が、ホテルの独自性が発揮されていたというのも皮肉な話です。
 しかし、そうした時代のコンセプトを単純に再生するだけでは、不十分です。フォーマルなサービスよりも、カジュアルな私的接客に快適性を感じる人も増えています。サービスの洗練度というより、どれだけ親身になってサービスを提供できるか──“個”客と向き合う、人ならではのサービスの基本を忘れてはなりません。


Bpoint:外資系ホテルばかりが何故もてる?


 有力ホテルブランドが次々に誕生する、いわゆる“2007年問題”、さらにはそれ以前から取りざたされる“新御三家”の誕生など、どれもが外資系ホテルの話題ばかり。中には「外国人の存在そのものが、最強のアメニティだ!」とする見方もあり、日本人客をしてカッコいいと魅了する事柄には、まだまだ日本も国際化の発展途上なのかなと思わせる節も隠し切れません。そこには、海外旅行で覚えた有名ブランドの再現性であったり、新しいトレンドを取り入れたインテリアの味わいなど、後発であるが故の優位性もあるでしょうが、私たちが学ぶべき運営面での違いもたくさん隠されています。
 外資系ホテルの強さの秘密を「ここが変だよ、日本のホテル」(土井久太郎著)よりピックアップしてみました。自らのホテルのコンセプトと照らし合わせてみてはどうでしょうか。

 
──外資系ホテルの強さの秘密──

社長、総支配人などトップが経営方針、ビジョンを示し、現場へ権限委譲している
様々なキャリアの従業員が混じりあう異質性が緊張感や知恵を生んでいる
徹底した清潔感(メンテナンス)
施設への投資は安売りしない
褒め上手。働いている人が楽しそう!
技術よりも、おもてなしの哲学教育を重視
下部の声を吸い上げる仕組みづくり
サービスの点検は、必ず第三者に委託
ホスピタリティ精神は、従業員同士にも徹底(社風がホテルのスタイルに)


Cpoint:地域をもっと知ろう!もっと関わろう!


 温泉地や有名観光地における旅館だけでなく、ホテルにおいても、利用者がホテルを特定する理由の中には、訪れる地域との関係性が大きな要素を占めています。観光・ビジネスといった目的を問わず、その地域に何らかの目的や魅力がなければ行動拠点として選ばれる対象にすらなりません。同時に、ホテルに勤めている人ならば、地元のことは詳しく知っている、と多くの利用者は考えています。
 そういった利用者の宿泊理由を知ることや、情報拠点として機能することも極め細やかな顧客サービスとして差別化に繋がっていきます。同時に、地域住民との関係性もホテル利用の促進には重要になってきています。交遊や参加型イベントの舞台として地域に密着することが、口コミを通じて外部の人々を誘引することに繋がります。人が最大のメディアであることを忘れてはなりません。また、ビジネス街に立地するシティホテルにおいても、日中をその地域で過ごすビジネス住民に、どんな場所や機能を提供できるかといった発想が必要です。忙しい中でも時間を有効利用しようとする有職女性たちも増えています。エステに代表されるケア・サポートの場はもとより、自分への投資を惜しまない層への学習の場として機能する──そんな視点も新たなメニュー開発には求められるでしょう。


Dpoint:時間軸も十人十色


 有職女性の増大、パート労働の拡大に伴う働く時間の多様化、そしてリタイア組を中心に拡大する時間に束縛されない高齢者たち…と、余暇時間の活用方も十人十色の時代となっています。既にホテル業界でも、部屋の時間売りや帰宅途中の有職女性向けにエステやジムの営業時間を延長するなど、具体的な動きも活発化してきています。また、早朝発のビジネスマンの利便性を考慮し、チェックアウトを無人化したり、朝食にはおにぎりを用意するホテルが登場するなど、これまでのホテル・サービスの概念を一変させるような工夫も凝らされてきています。宿泊客以外でも、欧米のビジネスマンのように、出社前にジムで汗を流し、ホテルで朝食をとる──そんなライフスタイルが日本に生まれるのも、時間の問題かもしれません。
 こうした時間に対する価値の変化は、早朝、デイタイム、そして深夜と、これまで一斉に行われていた事柄が、個々人の都合によってバラバラになってしまう可能性が拡大することを意味します。さらに、ビジネスの国際化が進めば会議の時間帯も変わってくるかもしれません。
 そうしたすべての都合に合わせることは不可能であっても、“合わせる”のではなく、こんな朝や夜の過ごし方もあるというホテルライフを提案していく──周辺地域や顧客層の特性を見極めながら、ホテルという空間の新たな活用法を見つけ出すことが必要です。ホテルの就業スタイルと似通ったシフト制がサービス経済の進展とともに拡大しています。自分たちだったら、こんなサービスが欲しい/こんな従業員向け機能が既にホテルにはある──まさに灯台下暗しで、自分たちのニーズを商品化すれば、そこに価値を見出す層も少なくないかもしれません。


Epoint:ホテルのノウハウを外で発揮!


 昨今では、ハイエンドな客層のライフスタイルを探るといった視点だけでなく、社員同士が気持ちよく接する姿勢が良い社風を生み、ひいては顧客への心のこもったおもてなしが可能になるという考えから、ホテルのホスピタリティ教育に注目する異業種も増えています。このように異業種の活性剤としてホテル・ノウハウを活かしたいとする動きや、ホテル外でのレストランの運営、プライベート・パーティーのトータル・コーディネイト、さらには内装やインテリア・コーディネイト等々、ホテルの持てる餅屋の技を評価し、委託するといった動きは拡がりを見せています。
 これまでホテル内では、それは本業ではないと軽視するむきもありましたが、外から見れば本業に裏打ちされた立派なノウハウと映る事柄が他にも隠されているかもしれません。まずは、自らのホテル空間がどんな利用のされ方をしているのか、どんなふうに利用したいと思われているのかを再点検してみる──言葉を換えれば、顧客に学ぶという姿勢を持つことも重要です。そうした姿勢が、異業種との連携に繋がり、双方にとって新しい商品の価値を生み出していく、そんな可能性は大いにあるとみていいでしょう。


■究極のホテルアメニティは“人”


 これまで述べてきたことでおわかりのように、当プロジェクトでは、快適な空間と時間の提供を中心に据えながら、人が介在することの意味や意義を追求してみました。
 ホテルが創り出すアメニティ(快適性)には、繰り返しになりますが、また次も訪れたくなる“おもてなし”や“感動する体験”が大きな要素として横たわっています。そうしたアメニティの創造には、私たちホテル従業員の“気付き”が必要であり、それらを連鎖させながら、独自のホテル・ブランド(スタイル)を築き上げていかねばなりません。
 しかしながら、今プロジェクト研究を通じて気付いたことがあります。それは、感動の場を提供する私たち自身が、どれだけの感動を体験しているかということです。メーカー企業の中には、そのターゲットする客層の気持ちに近づくために、自らの感動場面を発表しあうことで“気付き”のセンスアップを図っているところもあります。
 ホテルの教育システムや社員採用方針も、市場の変化に合わせて改良が加えられてきています。しかし、技術の習得だけでなく、ホテル利用者の立場にたって考えてみる。さらには、ホテルを利用している場面だけなく、ホテル外での日常を知ることのできる場づくりが必要です。
 幸いにも、サービス連合にはバリアフリーの旅など、ビジネスから一旦離れて、ホテルや旅行業に期待されるニーズやコミュニケーションのあり方を学べるメニューが存在します。企業内では限界があることも、産別として自ら開発していく、そんな姿勢を今後も発展させていく必要があると考えています。


※報告書全文(図表含む)については、こちらをご覧下さい。(約1.8M)

[BACK]