箱根観光フォーラム'97:パネルディスカッション 
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箱根から、国内観光の活性化を考える ……Page:>>>>>>>>>10>11>12>13>14

溝 尾  それでは、これより会場の皆さんからのご質問を受けたいと思います。
先ほど、観光地の活性化のためには国内だけでなく外国からの観光客にももっと目を向けた方がいい。しかも、単に外国ということではなく、ターゲットを絞った方がいいというお話がありましたが、箱根として特定の国をターゲットとして絞り込んだほうがいいと理解してよろしいのでしょうか。
■台湾へのマーケティングが、箱根の国際化へのキーとなるか

高 橋  ターゲットを絞り込むというのは、まずその国の問題と客層の問題を考えなくてはなりません。先ほどのの溝尾さんが紹介された事例にもあるように、箱根の場合、国としては台湾がターゲットになるかなという気はします。あくまでも私の直感です。韓国の現在の経済力ですと、東京−ディズニーランド−箱根というコースは相当高額なツアーになってしまいますし、価格的なキャパシティ面では台湾が上回っているからです。
  ただ、韓国でも温泉旅行を希望するのは日本同様中高年層で、ディズニーランドへ行きたいというのは若い方々、というように日本を訪れる旅行目的が明らかに異なっています。旅行者の形態には、家族、カップルなど色々なカテゴリーがありますが、箱根の場合には、ハネムーンナーか中高年層になるのではないでしょうか。当然マーケティングが必要ですが、その際もどの国のどういう目的を持った旅行者にニーズがあるのか、或いは来て欲しいのかという観点で絞り込んでいった方が対応方もはっきりしてくると思います。実際、国際化に具体的に対応してには、そのための準備が非常に重要になってきます。例えば、パンフレット表示、通訳の配置、或いはどのような観光ルートを提示するかという問題もあります。一度にすべての客層に対応するのは不可能だと思いますので、乱暴な言い方をすれば、当面は台湾からのハネムーンや裕福な中高年層で日本ファンの方々の観光旅行に焦点を当ててみるといったところでしょうか。
  例えば、以前別府の杉の井ホテルで韓国の旅行者を対象にアンケートを実施したことがあります。それは、ホテルのある一角が空いていて、そこに何を作って欲しいかという内容です。日本人であれば、クアハウス、スパ施設、或いは室内プールといった回答が相場ですが、約9割の方がディスカウント・ショップと回答したそうです。つまり『秋葉原』が欲しいのです。実際、彼らは福岡から入って別府に泊まり、福岡のディスカウント・ショップで家電を買って帰っていきます。結局のところ、ディスカウント・ショップの設置には至らなかったのですが、出国する前には福岡のディスカウント・ショップに立ち寄る時間がとれるよう送り出し態勢を整えていらっしゃいます。また、アンケートとは関係ありませんが、同ホテルでは、宗教の違いによる食事の問題に対しても、バイキング形式にすることによってご本人に料理を選択してもらうなどの工夫を凝らしています。金額的には、日本人がヨーロッパへ旅行するのと同じような感覚で来るわけですから、彼らのニーズを満足させるようなシステムをホテル以外のコースを含めトータルに考えてあげなくてはならない。ですから、一般論でアジア全域ということではなく、まずこのマーケットを取り込んでいこうという姿勢で準備すべきだと思います。

溝 尾  実は今年(1997年)の3月か5月に、台湾ではありませんが中国から観光ビザを持った団体の初来日が実現するはずだったのですが、日本の外務省との保安・安全上の問題等で秋に延期されてしまいました。その後のアナウンスが何もないので、また延びるのかもしれません。いずれにせよ、13億もの人口を抱える中国から、今後本格的に人が動き出すということにも、十分に視野に入れておく必要があるでしょう。他にはいかがですか。
箱根の活性化につながる様々なご提案がありました。しかし、このようなシンポジウムに参加していつも感じることなのですが、その場では議論が高まっても、なかなか行動には結びついてこない。バスの問題でも、外国では2回乗り換え自由であるとか、外客にとって便利なシステムが色々とありますし、国内でも九州のある温泉では、泊まれば外湯をずっと回れるような企画が人気を博しているなど、具体的な好事例を知っている方もたくさんいらっしゃると思います。そのような議論や知識が、何故新たな行動に結びついてこないのか、その要因な何なのかお考えをお伺いできればと思います。
■「豊か過ぎた箱根」だからこそ、ドラスティックに変わる

植 原  全くの私見ではありますが、箱根に限っていえば、やはり今までが豊か過ぎたということがあると思います。しかし、昨今の変化のなかで危機感を持ち、初めて本日のような課題を実感するようになってきたのではないでしょうか。ですから、これからの数年間で箱根はドラスティックに変わっていくと、私は思っています。
  例えば、道路標識一つ取ってみても、箱根の場合は完全に遅れていますね。私は10年ほど前から各道路に名前をつけるべきたと主張しております。強羅の一部では実現しているところもありますが、その他の大部分の地域では、観光客の皆さんは今自分がどこを走っているのかが全くわからないのではないかと思います。まず、この辺から取り組むべきだと思いますが、民間業者だけでは不可能ですから、是非町や県のご協力を得ながら、早急に実現したいと考えています。
ただいまの植原さんのご指摘通り、豊かさが閉塞状態となっているなかで非常に危機感を抱いている一人です。これまでは箱根を発展させていく必要を感じていても、官と民が平行線をたどることも多かったような気がします。確かに、今は町と民間が一緒に会議をして何かをしていこう、或いはしなくてはならないといった状況になりつつあるとは感じております。しかしながら、例えば看板の問題にしても環境庁の立場というのは私たちにとって大変厳しい。県にしましても行政的には民間のやることを、どちらかといえば規制するような姿勢にあると受け止めてしまいがちです。そのようなことを含め、行政と民間の役割分担なり、お互いの連携を今後どのようにしていけばよいのか、ご意見を伺えればと思います。
■「発展」ではなく「再生」に向けた官民の連携を

瀬 田  何が厳しいのか真意はわかりませんが、具体的な話を詰めていけば、さほど厳しいということはないと思います。それと、箱根の「発展」とおっしゃられましたが、現状でも45,000人もの収容力を持っている温泉地が、さらにどのような発展を遂げるというのでしょうか。言葉の綾かもしれませんが、それは「再生」ではないかと思うのです。今ある現実を見つめて欠点を変えていくという、いわば循環の思想であって、右肩上がりの「発展」はもうありえません。地球環境も全く同様です。しかし、「再生」の道は残っている。
  確かに、ご質問の内容で賛成したいこともあります。規制ばかりやっていますと、「国立公園では、建物を建てるには環境庁長官の許可を受けなければならない」という規制の文言だけが頭の中に入ってきて、公園をどうしたいのかということは見えにくいのは確かです。
  フランスに『シャルトルース』という、国立公園ではありませんがいわゆる「地域公園」があります。ここに『地域自然公園の住民協定』というのがありまして、その協定には「公園はこうします」と明記されています。景観、動植物の保護、廃棄物、水、観光の5項目に「公園は」という主語があることが重要なのです。その次に「市町村はこうします」とあります。シャルトルースという一つの地域公園は、63のコミューン(町村)で成り立っていて、それぞれ200−1000人という小さい町村なのですが、そこでの住民協定は、「公園」「市町村」「住民」のそれぞれが常にセットになって「こうします」と書かれているのです。その協定の一例をご紹介しましょう。「景観」という項目には、『公園は約束します。公園は町村の土地利用計画の中に、景観保護のための必要な対策を組み入れることに協力します。公園は町村がより適切な解決法を見いだすことに協力します。』そして、『皆さん、町村は約束します。それぞれの町の景観をよく運営するために、それぞれの活動を行います。土地利用計画の修正、荒地の拡大に対する対策、放置された農地の復活、汚い部分の解消。』次に『皆さん、住民は約束します。私は家の周辺の維持・管理をします。私はこの地方の木や灌木の植林を優先します。なぜなら、この地方の木はこの地方の気象条件に一番適しているからです。』――このように、ごみや水についても様々な宣言があるのです。
  実は、シャトルルースというリキュールがありまして、日本でも購入できます。昔修道院があったところで造られていまして、だからこそひたむきにこういうことをやっているのです。45,000人もの収容力を持った箱根の17,000人の住民が、ひたむきさを持っておやりになるかどうか。そのときに「発展」というと、きっと火傷しますよと言っているのは、何も環境庁が言っているわけではないのです。だから、「再生していこう」「脱皮していこう」という思想でおやりになる方がいいのではないか。多少抽象的かもしれませんが、恐らく「飛躍」はもうないと思います。私はいつもよく言うのですが、何かがあると大勢の人が来て、その後は一気に落ち込んでしまう――『おもしろうて、やがてかなしき鵜飼かな』という芭蕉の句になってしまうでしょう。
箱根の旅館の1泊2食の料金が高いということがよく言われます。しかし、今の宿泊料金を維持しなければ、旅館の経営が成り立たないという現実もあるわけです。そこでお聞きしたいのですが、「旅館の適正価格」とは一体どのような料金を指すのでしょうか。
■宿泊料金の中身がどれだけお客さんに伝わっているか

柳 川  旅館は、建物、立地条件、サービス、そして料理と、商品を構成する中身が個々に違いますから、具体的に一つの数字で表せる「標準料金」といったものはありません。ただ、旅館の形態が画一化の方向に向かうにつれ、そうした個々の料金差が利用する人にとっては納得しにくくなってきているのも事実です。
  料金の問題は、その設定が高いか安いかではなく、実際にはその中身が非常にわかりにくいというところにあるのだと思います。つまり、実際に泊まってみないとわからないということです。ですから、高橋さんのお話にもありましたように、最近ではお客さんの方が商品構成を選択してしまう。例えば、予約時に夕食なしを希望されるお客さんもいらっしゃるし、逆に非常に高額な料金となるサービスを希望されるお客さんもいらっしゃるわけです。確かに箱根に限らず、旅行者の平均的な感覚で言えば、1万5千円では高くて、1万ないし1万2千円止まりという層はかなりいるでしょう。しかし、全ての旅館がそういう層に合った商品のみで構成されるのではなく、違うニーズに応える具体的な特徴を打ち出せる旅館が存在することで、箱根という地域の奥行きも深まってくるのです。
  要するに、重要ななことは旅館の具体的な情報が、実際に宿泊する人に伝えられるかどうかということです。そのためには個々の旅館だけでなく、団体、行政、或いは旅行業が担うこともあるでしょう。そう言う意味では、情報発信の方法についても知恵を出していかなくてはならないと思います。
質問ではありませんが、木原さんのお話を聞いて共感を覚えたことがあります。私のおります旅館で、あるダウン症のお子さんが家族の方とご一緒に泊まりに来られたとき、そのお子さんがそのお部屋の係りの女性を慕うようになり、手を握って離さないということがありました。お母さんの話では普段はよその人には絶対にそのようなことをしないお子さんだそうです。こういう話を聞きますと、質の高い感情豊かな人たちが、生身の人間を相手にするこの旅館業を支えいくには必要なんだ、と強く感じるのです。ドイツでは、結婚する前の女性は2年間福祉施設に研修に通い、福祉を実際に体験してから職場に戻るという制度があるそうですが、日本の社会でも、特に私たちサービス業に働くものが、そういう体験をすることも必要だなあと思いながら、聞いておりました。
■旅館こそ、「人間味」を発揮できる場

木 原  私が旅館に泊まって感じるのは、年配の女性の方が色々と気遣ってくれるということです。彼女たちは人間味を発揮したがっているのだと思います。ただ、それをこれ以上は出さない方がいい、と抑えていらっしゃる。良い意味で年を重ねてくると、そういうセンスも身についてくるんですね。でも、だからこそ惜しいなあという感じもします。
  サービス産業の従事者は福祉関係の勉強をした方がいいという発言がありましたが、いま福祉関係機関が職員の接遇の勉強のために講師に招いているのは、実は旅館の女将さんなんです。つまり、皆さんはそういうセンスを元々お持ちなんです。それを十分に発揮できる環境を作ればいい。福祉という面では若い方には難しいかなとい気もしますが、いずれにせよ、皆さんは他の産業よりも人間味を発揮できる環境にいらっしゃる。或いは、そういった勉強をできる場にいらっしゃるんだ、ということを申しあげておきたいと思います。
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