箱根観光フォーラム'97:パネルディスカッション 
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箱根から、国内観光の活性化を考える ……Page:>>>>>>>>>10>11>12>13>14

溝 尾  活発な質問をありがとうございました。それでは今までの討議を踏まえ、最後にパネリストの皆様に、もう一度今後の箱根の活性化に向けたアドバイスをお願いしたいと思います。

■経験豊富な労働力を活かして、旅館文化の魅力を発揮しよう

柳 川  箱根の旅館を労働力という面から見てみますと、従業員の高齢化は進み、これまで中途採用中心であったのが、最近では新卒の採用が増えている旅館もあるかと思います。その際、最も課題となるのが、既存の従業員と新しい従業員とをいかに融合させていくかということです。旅館には旅館文化、ひいては日本文化を発信していくという重要な役割がありますし、経験豊かな中高年の方々の労働力というものが重視される、或いは活かされるという局面はむしろ増えてくるかもしれない。そういう意味では、中小規模の旅館の魅力というものは厳然としてあるわけですから、大規模旅館はもちろん、中小規模の旅館の皆さんにも、厳しい最中ですが是非頑張っていただきたいと思っております。
■個々の地域の「マイナー性」を売り物にする逆転の発想を

高 橋  先ほどのご質問にも関連しますが、民間と行政をどう結びつけていくのかという話は、どこにおいても悩ましい課題です。しかし、この近くの三島には、『グラウンドワーク三島』という非常に格好の参考事例があります。『グラウンドワーク』というのは、市民と企業と行政とが一緒になって行う環境改善運動ですが、今日本で一番活発な活動をされているのが『グラウンドワーク三島』だと私は思っています。
  この活動においては、地元の企業をどう巻き込んでいくかということが大きな課題です。箱根でいえば、多くの企業保養所がありますので、例えばそこをどう巻き込むかということを考える。かつてはお金をもらうということでしたが、今では基本的に環境改善の現物支給というかたちでの提携が多くなっています。例えば、企業から釘や石を提供してもらい、それを利用して住民がボランティアで公園や川の整備をしたりする。三島の場合は、川の整備で商店街の活性化を図りました。例えば、ホタルを解放する『ホタルの夕べ』。商店街は6時以降は店を閉めていたのですが、その期間だけは何とか店を開けてもらうよう、協力者を徐々に増やしながら町を変えていったのです。実は『日本グラウンドワーク協会』の初代事務局長は、『グラウンドワーク三島』の方で、元々県庁にお勤めの方です。是非、参考にされたらいかがでしょうか。
  私も全国を歩いていますが、箱根は非常に「メジャーブランド」だと感じています。いまマーケティングの世界では、情報伝達手段としての「口コミ」に注目が集まっていますが、実は「口コミ」というのはマイナーブランドです。「マイナー」が「メジャー」を駆逐していく時代に入っているのだと思います。つまり、箱根における今後の課題は、スポット毎に、いかに「マイナー性」を出していけるか。メジャーであることのスケールメリットはもう通用しなくなってきています。個々の旅館、或いは個々の地域のなかでの「マイナー性」を売り物にしながら、その価値に対してお金が支払われるようなシステム作りを目指していただければと思います。
■地区毎に備える個性の再検証と、女性の感性を活かす工夫を

瀬 田  箱根は常に観光地の先頭を走ってきたために、今その重みで大変な苦労をされておられる。敢えて逆説的に申しあげれば、ならば一度一番ビリを歩いてみたらどうだろうかと思うのです。
  私は箱根の地域を調査する際に3つの区割をしましたが、実際にはもっと小さく割れるかもしれません。植原さんは交通網という大動脈に関するご提案をされましたが、それぞれの地区にはそれぞれの個性があるはずです。私はサインの調査をするために足で歩いたからそれがわかるのです。ですから、皆さんも車ではなく、まず自らの足で箱根を歩いてみる。そして、例えば登山電車の駅周辺からその一角というように、一つひとつの地区をどうするかというように点検してみる。また、保養所として1万8千人もの収容力があるということは、日本のほとんどの大企業が関わりを持っているということです。中には設計や水処理などの技術を持った方々も本社や研究所から訪れてきていることでしょう。ならば、ある意味で日本の知能を結集することも可能ではないか、それが箱根の一番のメリットだと私は思っています。
  もう一つ考えていただきたいのは、女性の存在、センスについてです。雲仙の例ばかりで申し訳ありませんが、雲仙には旅館の大女将の会として「松の会」、若女将の会として「梅の会」という集まりがあります。旅館の旦那衆は公職や県庁との折衝に必死になっている。そこで、私は「松の会」の大女将にかわいがっていただき、雲仙をどう変えていこうかとよく相談したものです。また、たまには若い女性にも会わせて下さいよと大女将に頼んで「梅の会」の人たちとも話をして、思うことを伝えてその気にさせる(笑)。雲仙と違い、幾つにも分割された地域の中では難しいことかもしれませんが、是非、そうしたかたちで女性の感性を反映させるような工夫をしていただきたいなと思います。
■日本文化を伝承する使命感をもって、厳しい時代に臨む

植 原  大変抽象的な言い方になりますが、旅館業というのは日本の伝統文化を、我々の子や孫に伝えていかねばならない産業だと思っています。着物や畳など、旅館に色濃く残されている日本文化を絶やさないという使命があると思うのです。柳川さんがおっしゃられたように、旅館が大変厳しい時代を迎えているのは事実だと思いますが、そのような中でも旅館業を残していきたいというのが私の考えですし、ここにいらっしゃる旅館経営者の方々もそういう気持ちでともに頑張っていただきたいと思います。
■住民の声・客の声は、神の声

木 原  私は『住民の声・客の声は、神の声』とよく言うんです。まちづくりの関係者が一堂に会して、この町で何をしたらいいのかという議論をするなら、まずは皆さん一杯飲んで一人ひとりの愚痴を言い合ってごらんなさい。仮に30人だとしたら、40や50は出てくるものです。これで住民の問題が全部出てきます。そして、後は考えなくていい、そのうちの一つからやってみなさい、と私はいつも申しあげています。お客さんが何を望んでいるのかということも、この作業を一回やれば間違いなく出てきます。後はそれをどこからやるかということです。そして、その際にまず旅館全体で現在行っているサービスや仕事を点検してみるのです。すると、実際には無意識のうちに既に関わりを持っていたり、或いは関わりが持てそうなことがらが多く浮かび上がってくるはずです。その芽を一つひとつ大事に全体として育てていけば、必ず箱根全体の方向性も見えてくると思います。
  もうひとつ重要なことは、そうした問題を解決する際に、すべて自力でやろうとしないことです。繰り返し申しあげますが、住民にやってもらう、或いは住民と一緒にやっていくということを考えてみて下さい。皆さんのなかで、どなたかが地域回りをしてみてはどうでしょう。住民は箱根という地域の観光資源です。外から来られるお客さんが、箱根を感じたい、知りたいと言ったときに、その場面をどう作り上げていくか。そのための地域営業として住民との関わりを持っていく。まずはそれが基本だと思います。
■課題を整理し、中長期的な『箱根のグランドデザイン』を描く

溝 尾  どうもありがとうございました。箱根は、芦ノ湖があり、富士山が見えて、美術館も博物館もあるなど、日本でこれだけ一級の資源が揃っている地域はあまりないと思っています。箱根にいらっしゃる皆さん方も、おそらく箱根ほど素晴らしいところはないと思っていらっしゃることでしょう。本日のシンポジウムは、その素晴らしい資源をどのように活かしていくのかという議論だったと思います。
  いま佐渡島でも、ここ2、3年観光客が減ったと言われています。しかし、私は冒頭にも申しあげたように、成熟期なのだから無理して来客を増やす必要はないと進言しているのです。右上がりの状態が続きますと、どうしても次は何百万だという目標を掲げてしまう。目標を掲げることは悪いことではないのですが、落ち込むとそのショックで、また新たな活性化策だという話になりがちです。そうではなくて、これまでに検討を重ねてきた提案が悪いのか、或いはそのうち何が実現できたのか、或いは何故実現できなかったのか――それらを全部整理する方が効果的なのですが、なかなか理解をしていただけないというのが実態です。
  さて、本日の議論の中に、箱根もこれまでが豊かだったから、ショックを味わったことがなかったというお話がありました。ある意味では優等生だったということです。今回初めてショックを味わったということを私は信用いたします。しかし、そのショックもちょっとお客が増えてくると忘れ去られてしまうということにもなりかねません。少なくとも、本日のシンポジウムで様々な提案や考え方が提示されたと思います。それらを踏まえて、さらに皆さん方が色々なかたちで議論を重ね,これからの箱根の取り組み課題を整理していただきたい。取り組み課題は、70も80もあることでしょう。一気には無理ですが、すぐにできることもあると思います。3年くらいで実現をめざすもの、或いは10年かけて共通目標に達するようなことがらもあるでしょう。そういった課題に対して、中長期的な視野で一歩一歩前進していただけたらと思います。また、これまで何回も挑戦されてきたことだと思いますが、本日の議論が、次の箱根づくりに向けて、行政と民間企業、そして地域の皆さんがともに歩み出す一つの契機となることを祈っております。