箱根観光フォーラム'97:パネルディスカッション 
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箱根から、国内観光の活性化を考える ……Page:>>>4>>>>>>10>11>12>13>14
■構造不況に陥る旅館業の現状

  次に、売上額から見てみましょう。実は、第一次オイルショック以降、旅館全体の売上が前年を下回った時期が5回あります。1回目は1974年(昭和49年)のオイルショック直後で、日本経済の不況との関係から直接的な大打撃を受けました。2回目は1977年、企業倒産の目立った景気低迷の年です。3回目は80年の第二次オイルショック。4回目は国鉄運賃が5年連続値上げされ、同時に景気が低迷した時期です。そして今回のバブル崩壊後、つまり93年以降の長期不況の時期となります。1回から4回目までは、前年額を下回っても必ずその翌年以降、少しずつ回復するというようにV字型の折線を描くような状況でありました。ところが今回はこれまで旅館が経験したことのない、3?4年続きの売上減という状況になっているわけです。中小企業の経営指標等を見ても、日観連クラスの旅館ですが、その約75%が赤字という結果が出ています。これは1995年段階での数値ですので、その後もさらに増えている可能性が強く、非常に厳しい環境が続いている。今回の状況下においても、実は前半は利用者の数は減っても一人当たり宿泊単価は上がっていました。ですから、個々の旅館では、客数の減少を単価アップでカバーできたというような分析があったかもしれません。しかし、後半は売上総額の減少が進むなかで単価を下げても利用者数はさほど増えず、前年売上を確保できないというような状況が続いています。これから先、景気動向には若干明るい兆しが見え始めたとはいうものの、現在の旅館の実態からは、そのような兆候はほとんど見られないというような状況です。
■消費者の価格意識の先鋭化

  さらに、予約状況についてはどうでしょう。私たちは昨年より調査をしているのですが、夏場の予約状況が非常に悪くなっています。昔は春・秋でしたが、近年は夏が一つのピークとなって、実際にはあまり予約が入っていなくてもフリー客を含めて何とか埋まる、場合によっては他館へお客さんを回さざるを得ないといった旅館も出てくる状況がありました。しかし昨年の夏は、何しろ予約が遅い。しかも当日になっても埋まらず、一室当たりの稼働率や宿泊人数が減るため、やむを得ず繁忙期の設定となっている宿泊料金を下げるなど、非常な苦戦を強いられるケースが多く見受けられました。要するに、ピーク時の売り手市場といった状況がなくなり、お客さん自身が夏にしても冬にしても一番宿泊料金の高い時期を外すという行動に出ている。これは交通渋滞の問題もありますが、むしろ消費者の値ごろ感といいますか、価格意識が敏感になってきていることや、休暇も以前よりは自由に取得できるようになった、そのような環境変化が大きな背景となっているのだと思います。学生も同様で、8月の高い時期ではなく9月に入ってから海外旅行に出掛けるといった状況もあるようです。
  このような状況のなか、今多くの旅館は必死のコスト削減で当面の危機を乗り越えようとしています。しかし、これまでと同じ仕事の流れの中では限界があるのは当然です。従業員の作業効率をより高めるために提供するサービスの差別化を行ったり、一人ひとりが担える仕事の分担を見直す。或いは、労働力をフルタイマーの社員だけでまかなうのではなく、パート労働の活用や可能なものは外注化する、また逆にこれまで外注化していたものを中止する等々、旧来の延長線上にない様々な工夫が不可欠な状況となっています。
■顕在化する「サービス」と「ニーズ」のミスマッチ

  では、旅館を訪れる旅行者の形態や意識はどう変化しているのか。まず、最もはっきりしているのは団体客が極端に減少しているということです。バブルの時代までは、かなりの収益をあげていた法人等が、ある意味では節税対策を含め団体旅行を盛んに行ってきた。たとえ個人客であっても、実際には法人や団体の経費扱いという部分もあったわけです。しかし今では、その法人、団体がなくなってきて、全体的に個人・グループ志向が強くなってきている。単なる客層の形態が変わったということだけでなく、その結果として、旅館側が「お客さんさんはこういうサービスを求めているのではないか」と想定しているものと、実際にお客さんが求めているものとの間に起こるすれ違いが目立つようになってきた、いわゆるミスマッチが生まれているのです。
  具体的に申しあげれば、一つは料理提供に対するお客さんのニーズの変化があります。小グループ・個人或いは家族旅行の比率が増すにつれ、これまでのお仕着せ料理では満足せず、料理の選択をさせて欲しいというニーズが増えてきています。また、温かいものは温かいうちに食べたいということで料理提供のタイミングに対するニーズも厳しくなってきている。そして、その料理を食べる場所に関しても、部屋出しの希望が多いものの、一方で朝食はもっとゆとりのあるかたちでとりたい。つまり、布団あげの作業のために早朝から起こされてはゆっくりできないということですが、ここには従業員の方がずかずか入ってくるのが嫌だという問題も含まれております。結果として、別会場にてバイキング型の朝食を提供し、従業員の作業の効率化にも結びつけているといった状況が出てきたわけです。さらには、人的サービス面についてもニーズの変化が現れてきています。今のお客さんのなかには、自分たちが必要としないサービス――俗に『ベタベタサービス』とも言われますが――を受けるより、宿泊料金に値ごろ感を出して欲しい、つまり基本的なサービスさえしっかりしていればという客層が増えている。このようにお客さんの嗜好に幅が出てきますと、これまでのチーム編成によるサービスではコスト上の問題も含め、対応しきれないのが実態です。したがって、必要のないものは思い切って削ぎ落としていくという、改めて提供サービスの見極めをしなければならない時代を迎えているのではないでしょうか。
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