箱根観光フォーラム’97:基調講演 
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■資生堂の活動にみる「企業の威力」

  私が以前よりお付き合いをいただいている会社のひとつに「資生堂」があります。この会社は優良企業としての評価はもとより、社会貢献としてのメセナ活動も活発に行っていて、その活動内容についてお話を伺うたびに「資生堂」という会社の別の側面を見ることができます。
  以前、ある老人ホームから妙な注文を受けたそうです。ベッドに寝たままの状態でお婆さんにシャンプーをしてあげたい。でも水道をひっぱってくることもできないので、水を使わなくても済むような方法はないかと相談をもちかけられたというのです。普通なら「当社にはそのような商品はございません」で終わってしまうのでしょうが、資生堂ではその問い合わせをきっかけに水の要らないシャンプーを開発したそうです。そしてその後に阪神大震災が発生。その時にはそのシャンプーのことは頭になく、資生堂として被災者の方々にシャンプーをしてあげようと美容部員を派遣した。すると現地には水がなく、美容院ですら水を持参の方のみシャンプーをしてあげますとの貼り紙がしてある状況だった。そこで初めてかつて開発したシャンプーのことを思いだし、急遽増産して被災者に提供した結果、非常に喜ばれたということです。さらに、今では『ドライシャンプー』という名で資生堂の売れ筋の商品の一つになっているというのです。つまり、舞い込んできた妙な注文を、まじめに受け止めてあげたら、他の場所で商品になってしまったという話です。
  また、同社では業務時間中に、美容部員が障害者や寝たきり老人、痴呆症の老人などにお化粧を教えてあげています。それも全国の老人ホームや障害者施設でやっていらっしゃる。そうした活動の対象となっていた徳島・鳴門のある老人病院で、美容部員が41人の寝たきり老人にお化粧を教えてあげていたら、そのうち11人のおむつがはずれてしまうということが起きたそうです。どうやらお化粧をほどこした自分の顔を見るのが楽しみになり、こんな姿におむつは似合わないと思い始めたのが、そうした変化の理由だったらしい。さらに驚くことには、ボケが直って家に帰ってしまった方まで出てきたというのです。企業の持っている力というのは、皆さんが想像している以上のものです。ご自分ではわかっていないでしょうが、皆さんが普段の仕事を通じて培っている力は非常に大きなものです。それをちょっと活かせばいいのです。
  実は、この活動を始めるきっかけは、全盲の女性社員を雇用したことにありました。消費者対策部に配属した彼女に、ある時どうして化粧をしないのかと訊ねると「見えないから」だという。ならばということで、上司だった女性社員が彼女に化粧の仕方を教えてあげると、それ以来本人も喜んで化粧をするようになったらしいのです。結果、その全盲の社員をキャップに据え、障害者や老人のためのお化粧指導ブループを設置して全国を回り始めることになったということです。昨年だけでも、対象は3?4千人にのぼっていますし、そのノウハウは一般のお化粧指導の中にも十分活かされている。
  資生堂にはこの他にも、自社商品が原因で肌荒れをおこしたとのクレームに対し、実際にはその人の食べているご飯の成分に原因があることを突き止め、さらにそこに留まらず、大学との提携により市販の米から肌荒れの成分を取り除く研究をして新種の米を開発してしまったとか、火傷を負って家に閉じこもり状態になってしまった娘を助けて欲しいとその母親からの依頼を受けたのをきっかけに、本社の研究開発本部で大火傷を負った人の修復の研究を始め、そのノウハウをお化粧の技術に活かそうと努力されているなど、様々な事例に事欠きません。転んでもタダでは起きないというのはこういうことを言うのでしょう。そういうふうにして、華やかな企業の裏側で、ていねいにお客に応対していらっしゃる。企業の姿勢次第では、企業活動の原点とも言えるポイントを押さえたときに、本日のテーマにそぐわしい可能性が何か出てくるかもしれないのです。そのプロセスの部分が、結果として社会貢献になっている。それでいいのです。
  私は「企業の社会貢献」について、企業活動の外枠で余力を使うという発想は好きではありません。現場に舞い込んでくる想定外のテーマ――往々にしてそれがクレームであることも多いのですが――をきちんと受け止め対応したときに、異常な強い力が発揮される。そして同時にその企業の利益にも繋がっていく。こうした部分で勝負したほうがいいということを、私は15年以上一貫して主張してまいりました。つまり今の不況おいて、私が申し上げたいのは、敢えて広く、もう一度企業活動の原点に返って周辺を見渡したときに何かが見えてくるのではないかということです。企業人ではない素人の私が申し上げることですが、この不況になって、ようやく私の発想を納得していただけるようになったのかなと感じています。
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