楽しくわかるニッポン通訳案内--No.1

(日本語訳バージョン)

中山 幸男
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VIPは45度、平謝りは90度

  外国人と出会った時に握手しながら同時にお辞儀をしてしまう日本人がいるが、私はそんなに悪いことではないと思う。むしろそうした動作も日本紹介のネタになってしまうのだ。ついそんな仕草をしたときは、
 That's how Japanese say hello.
 (日本語訳)
  などと言えば、相手は思わずクスッとなる。初対面はなごやかに打ち解けることが肝心。お辞儀の説明は次の調子でやるといいだろう。
 There are different degrees of bowing, from a slight nod of the head to a 90-degree bow of apology.
 (日本語訳)
  もっと詳しく、例えば以下のように言いながら、ジェスチャー混じりでやるのも面白い。実はこれ、私の得意ネタになっている。
 There are four levels of bowing―you bow to your equals at a 15-degree angle, your boss at a 30-degree angle, VIPs at a 45-degree angle, and the husband must bow to his wife at a 90-degree angle after coming home late at night from his favorite karaoke bar.
 (日本語訳)
 「VIP」と言うとき、目の前のお客に45度のお辞儀をすること。是非、チャンスがあったらこんな説明をしてみてはいかが。外国人を連れて日本各地の旅行をしていると、思わぬハプニングに出会うことはしょっちゅう。ガイドが迷子になってしまうこともあるのだ。いつだったか、あまり行ったことのないお寺を案内していて、本堂に行くつもりがトイレのほうに向かっていたということもある。
  そんなときは前に実演をしておいた通り、今度は90度の平謝りをして見せるのである。最初に円滑な関係をつくっておけば、何か起こったときにそれが生きてくる。
  お辞儀と言えば、喜劇俳優のボブ・ホープは、アメリカ軍が日本を占領していた時代、東京・有楽町で行われたGI向けのショーでこんなふうに語ったとされる。
 「日本人は非常に礼儀正しいですね。ぼくはああいうお辞儀には慣れてません。だから日本に来て5日目なのに、まだだれの顔も見ていないんですよ」
  なかなか見事なユーモアセンスだと感心してしまう。今でも十分に通用するジョークではないだろうか?

名刺の作法も教えよう

  日本人の挨拶につきものの名刺は business card や name card などと訳すが、名刺を相手に渡すときは、
 Here's my card.
 (日本語訳)
  のように単に card で済ますことも多い。名刺交換のしきたりについては、
 We need to modify our speech and attitude according to the rank of the person with whom we're speaking.
 (日本語訳)
  のように説明してもよい。名刺の受け取り方を次のように言うこともできる。
 When receiving a card, you should look grave, but with a nod of approval and surprise, as if to convey, "I'm really impressed.
 (日本語訳)
  普段日本人が何気なくやっている動作をこのように解説すると面白みが出る。
  さて、何度も名刺を交換しながら、そのうち慣れてきて、名刺に両手を添えてきちんとお辞儀をするような外国人も出てくる。そんなときは、
 You're too Japanese !
 (日本語訳)
  とほめてあげよう。
 You know you've been in Japan too long.
 (日本語訳)
  などと冗談めかして言うことも可。
  話がちょっと脱線するが、この You know you've been in 〜 too long.というのは、よく在日の英米人がジョークで使う言い回しだ。何かその理由を一緒に挙げることが多い。
 You know you've been in Hokkaido too long when you forget that Japan is actually divided into other prefectures.
 (日本語訳)
  というふうに使うわけだ。

当意即妙の表現を準備する

  英語を使った旅行で終始聞かれる表現が、Enjoy your trip.だ。そのための案内としては、難しい話や堅い話ばかりではなく、時にユーモアを入れながら、肩の凝らない話をすると喜ばれる。プロの通訳ガイドがよく冗談を言うのはそのため。人を飽きさせない心配りとも言える。
  もっとも気の利いた表現が、いつもさっと出てくるわけではない。
 Repartee is something we think of 24 hours too late.
 (日本語訳)
  とは、米国の作家マーク・トウェインの残した金言だ。したがって、私も新聞や映画などに出てきた使えそうな表現はストックするようにしている。最近はインターネットを利用して、いろいろなサイトの英文記事をつまみ食いをすることも多くなった。
 A pair of rubber boots are best, but who packs these ?
 (日本語訳)
  これは、東京の築地市場に行く予定のある訪日旅行者向けのアドバイス。あるHPで見つけた。こんな表現が次々に加わると、コレクションが楽しくなってくる。


(第1回おしまい)