楽しくわかるニッポン通訳案内--No.3
タイトル:京都を英語でウォーキング
(英訳バージョン)

中山 幸男
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王将は王将のまま

  「将棋のオリンピック」とも言うべき第2回国際将棋フォーラムがこの秋、東京で開催され、その通訳の仕事をした。将棋はJapanese chessと呼ばれるように、西洋のチェスと親類のようなものだ。
 
 私はいつも外国人に対して、
 このゲームはインドが発祥です。西洋ではチェスになり、日本では将棋になりました。
 (英訳)
  のような調子で将棋の説明している。
  将棋とチェスの共通点は、相手に勝つためには敵の王将(キング)を先に詰ます(checkmate your opponent's king)ということ。将棋がユニークなのは、
 相手の駒を取れば、自分の駒として使える
 (英訳)
  という点である。これはチェスにはないルールである。
  
さて、将棋関係の通訳をするからには、「王手をかける」のcheckや「王手詰みにする」のcheckmateといった用語を混同しないように頭の中で整理しておかなければならない。当初は駒の呼び名も英語に訳すつもりでいたが、大内九段から次のようなアドバイスをいただいた。
  「王将はkingなどと英語に直さなくていいですよ。なんでもかんでもアチラ流に言葉を置き換えることはないんです」
  将棋の駒をチェスの駒のように呼ぶのは、せっかく「太郎」という名前があるのに「ビル」と呼ぶようなもので、その必要はないということだ。それまで、「飛車」はチェス流にrook、「角」はbishopなどと覚えていたのだが、駒の名前はそのままで行こうという心づもりができたのである。

将棋にも家元がいた


  赤坂の東京全日空ホテルで行われた前夜祭では、主催者や来賓代表の挨拶のあと、プロ棋士を代表して羽生3冠が挨拶をした。日本の家元制度のことに触れて、
  
「将棋の世界は、江戸時代には茶道や華道のように家元制度として存在していました。しかし、勝敗がはっきりとつくという性格上、流儀だけでは割り切れない部分があり、今日の実力制へと移行しました」
  と述べた。将棋にも家元制度があったとは驚きである。私の訳文は、
  In the Edo period from the 17th to the 19th century, shogi existed as the iemoto licensing system like tea ceremony and flower arrangement. But as shogi is a decisive win-or-lose game, just observing each school's artistic ways could not be convinced by reason, so this is currently changing to a merit system.
  というもの。日本の年号をそのまま言っても、ほとんどの外国人にはピンと来ない。そこで、the Edo period from the 17th to the 19th century(17世紀〜19世紀の江戸時代)のように補足したわけである。
  家元制度の英訳はちょっとややこしい。上記のようにスラスラと口をついて出たのは、あらかじめスピーチ原稿をもらっていたので事前に英訳する時間があったからでもある。なお、原稿を用意するスピーカーはマイクの前でそのまま読み上げることが多いが、羽生3冠の場合、紙を見なくても言えるようにしっかりと暗記していた。トップ棋士として定評のある緻密な性格の一端を垣間見たような気がしたのである。
 
 各国代表のスピーチについては、それぞれにお国訛りがあって、ときに苦労しながらもなんとか無事に訳すことができた。ウクライナの代表監督だったと思うが、大会に寄せた抱負はひとこと、Victory.(勝利)というもの。これなら訳すのがラクチンである。
  
挨拶のあと歓談に移り、外国人参加者の注目を一番集めていたのは着物姿の古川女流棋士。オランダ人の男性がお話をしたいというので通訳してあげたが、第一声は、
 着物を着るのに何分かかったんですか?
 (英訳)
古川女流棋士とオランダ人代表選手


○○古川女流棋士とオランダ人代表選手

  というものだった。パーティーで初対面同士の挨拶にはこういう肩の凝らない質問が一番である。この棋士は将棋だけでなく、こうしたアプローチの仕方も定石に叶っていたようである。ちなみに、外国人に気軽に話しかける表現としては
 『すごいごちろうですね』 (英訳)
 『もう一杯ワインはいかが?』 (英訳)
 『〜を紹介させてください』 (英訳)
  などもサッと言えるように練習しておくとよい。

将棋の対局あれこれ

  開会式や、引き続き行われたアマ世界一を決めるトーナメント戦は、江東区東陽町の「ホテルイースト21東京」が会場になった。外国人参加選手が対局中、扇子をパタパタさせる風情は完全に日本のプロ棋士並である。
  トーナメントには女性選手も混じっていて、タイ代表は母国では女性唯一の有段者(二段)とのことだった。約4年前に日本人の友人から教わったが、最初は負けてばかりで、
 200連敗ぐらいした
 (英訳)
  と話していた。
  大勢の将棋ファンが見守る中、羽生3冠と森内名人による早指し公開対局もあった。これはふつうquick shogiなどと訳されている。外国人の中には、blitz(電撃的な)という形容詞を使ってblitz shogiという人もいる。
  またプロ棋士による指導対局(teaching game)も行われた。1人のプロに対して何人ものアマが同時に対局することから、英語ではsimultaneous game(同時に行うゲーム)という呼び名もある。日本のプロ棋士と対戦できるチャンスだというので、外国人選手たちも参加していた。
トーナメントの様子

左から順に「右のトレーナーの男性が優勝したシュニーダーさん」、「指導対局」、「自由対局」

  また会場にはいくつも将棋盤が置いてあり、だれでも相手を見つけて自由に指せるようになっていた。将棋ファン同士のこうした交流も楽しい。ある外国人曰く、
 ここでもうひとつの別の世界大会をやろう
 (英訳)
  ということで、あちこちで非公式の世界戦が始まるといった具合。別の会場ではコンピュータソフト王者の決定戦も繰り広げられていた。日本の将棋が外国人にもどんどん普及しているのは、チェスとルールが似ていることに加えて、インターネットの力も大きいようである。



タイ将棋(マークルック)○○
タイ将棋(マークルック)