楽しくわかるニッポン通訳案内--No.5


(英訳バージョン)

中山 幸男
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■『愛』の文字を求めて行列

 海外にいても日本の文化に触れる機会はある。今回はカナダの多民族フェスティバルで目にしたものをご紹介しよう。場所はアルバータ州の州都であるエドモントン。「フェスティバル・シティ」と呼ばれ、数多くのフェスティバルが開催される。なかでも最大級のイベントとして知られるのが、ヘリテージ・フェスティバル(Heritage Festival)。毎年8月の第1土、日曜日に行われ、移民の多いエドモントンならでは祭典となっている。
 ノース・サスカチュワン川沿いの大きな会場には各民族ごとのパビリオンがあって、その数50余り。歌や踊りなどその民族特有の伝統文化が紹介される。ハワイのパビリオンでトロピカルドリンクを飲みながら、ポリネシア風ダンスを見ていたら、常夏の島にいるような気分になってきた。
 日本のパビリオンをのぞいてみると、書道(calligraphy)のコーナーに行列ができていた。Dreamと「ゆめ」というふうに英語と日本語の対訳が張り出されているので、希望者は好みの文字を選んで書いてもらうようになっている。筆(calligraphy brush)を動かしている人に一番人気は何かと聞くと、Loveの「あい」ということだった。ひらがなではなく、画数の多い漢字で書いてくれとリクエストしている人もいた。また、Japanese Bookmark In Your Name(あなたの名前を書いた日本のしおり)という案内が出ていて、Jenniferという名前の女性なら、「じぇにふぁあ」と書いてもらえるようになっている。


















【書道(Calligraphy)のコーナーにて】

 盆栽の展示にも人だかりがしていた。bonsaiという言葉はそのまま言ってもカナダの人にはたいてい通じるが、分からなければ、potted, dwarfed tree(鉢に入った矮小樹木)のように表現してあげるとよい。pruning(剪定)やwiring(針金張り)など結構手入れが大変なので、

盆栽はペットよりも手間がかかりますよ。忙しい人だったら盆栽はあきらめたほうがいいでしょう。
(英 訳)

 などと付け加えることも可能だ。展示されているケヤキの盆栽を見ながら思い出したことがある。そこにzelkovaと書いてあったからだ。実はこの単語を私は長いこと、「ゼニコバ」のように誤って覚えてしまい、外国人の前でもそのように口にしていたことがある。「銭」と「小判」だから覚えやすいと思っていたのだが、まったくの勘違いだったというわけ。

■北の空に太鼓が響く
 お祭りと言えば太鼓の音が欠かせない。パビリオンの外で「北の太鼓」と呼ばれるグループの公演があり、見物客から盛んに拍手を浴びていた。演奏のあとで出演者の一人に質問すると、メンバーは15名ほどで国籍は全員カナダ人だとか。その半数以上は日系人以外の人種とだいう。アルバータ州内の小中学校などで数々の公演をこなしてきたとか。日本の文化がそんなふうにカナダの子供たちのあいだに浸透しているわけである。



















【カナダ人グループによる
「北の太鼓」】


 続いて合気道の実演。出演者はU of A Aikido Clubに属している人たちだ。U of AとはUniversity of Alberta(アルバータ州立大学)の略。イニシャルにofが付いた略し方は珍しい。大学名の入った帽子やTシャツなどにもこのロゴが使われていた。
 合気道といえば、攻撃目的の武道ではなく、まったくの護身術(strictly defensive martial art)。会場で渡されたパンフレットの説明にも、

合気道は日本の武道です。敵を負かすことを目的とする武術ではありません。精神面を鍛えるとともに、護身術のための効果的な方法なのです
(英  訳)

 のように記してあった。

■ゴルフボールに似た食べ物とは?

 このフェスティバルの最大の楽しみは食べ歩き。それぞれの国のエスニック料理をひとつに集めたメニューが用意されていて、その一覧を眺めているとなかなか壮観である。日本食では焼き鳥や稲荷寿司などが載っていた。それぞれの訳として、「焼き鳥」はbarbecued chicken and vegetables on a stick with special sauce(特別のタレで焼いたチキンと野菜を串に刺したモノ)、「稲荷寿司」はvinegary sushi rice stuffed in a deep-fried bean curd pouch(油揚げのなかにすし飯をつめたもの)のような説明が付いていた。ちなみに「焼き鳥」は簡単にgrilled chickenなどとも呼ばれる。「稲荷寿司」は deep-fried tofu stuffed with rice(ご飯をつめた油揚げ)のように表現してもいい。「稲荷寿司」の呼び名について私はよく、日本語の「キツネ」はfoxのことだと言ったあと、


稲荷神社の使いであるキツネが油揚げが好物なのでそういう名前が付きました。
(英  訳)

 と付け加えている。こんなミニ知識でも外国人に披露すると案外喜んでもらえるものだ。
 会場ではたこ焼き(octopus balls)も売られていて、それを不思議そうに見つめている人もいる。

まるで薄汚れたゴルフのボールみたいだね。
(英  訳)

 などというコメントを耳にして、思わず吹き出してしまった。
 ところで、帰りに空港でチェックインをする前にコーヒースタンドに立ち寄ったら、女店員に、

エドモントンで楽しく過ごされたことと思います。どうぞまたお越しください。
(英  訳)

 と挨拶された。おそらく、観光プロモーションの一環だろう。ほかの客にも同じように声をかけていた。どの店でも一人一人の従業員がこの調子なら、訪問地の印象がよくなること請け合いだ。今年は日本でもインバウンドの観光に脚光が浴びるようになっていて、国土交通省のほうでも「訪日ツーリズム元年」をうたい文句にしている。外国人旅行者を増加させる運動の具体策として、日本の空港でも早速このアイデアを取り入れるといいだろう。エドモントンのフェスティバルで日本文化に興味を持った人たちにも、ぜひ日本旅行をエンジョイしてもらいたいものである。