楽しくわかるニッポン通訳案内--No.9


(英訳バージョン)
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中山 幸男
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 外国人観光客の中にも写真を撮るのが大好きだという人がいる。新幹線の窓からカメラを外に向け、むやみにシャッターを押しながら、

 I got something.
 (和 訳)

 なんて言ったりする。
 最近はデジタルカメラ持参の客がめっきりと多くなった。ひとつのことに熱中する人を「ナントカの虫」といったりするが、英語でもbug(虫)を使うところが似ている。「カメラ狂」はshutterbugというわけ。
 いつだったか、写真撮影に夢中になるあまり、日本庭園にある池の飛び石から落ちてずぶ濡れになった人もいた。飛び石の上は良い写真が撮れると喜ばれるのだが、雨の降ったあとなどは滑りやすくなっているので十分な注意が必要。京都の平安神宮にはシャワールームや着替えまで用意してあるほどである。
 お客への注意事項としては、撮影禁止地域であれば、そのことをあらかじめ案内しておく。国宝級の仏像が収められているお寺の本堂などでカメラの使用が禁止されていることが多い。また、ふつうの写真撮影はOKでも、ビデオ撮影がダメな場合もある。

Sorry, but you can't take videos here.
 (和 訳)

のような注意を与えておく。


 観光地でのガイディングは、歴史や文化などの説明だけでなく、お客をうまく誘導することも大事だ。例えば、鎌倉の大仏などでバスを下車した場合、大仏像の前でいざ説明をしようとすると、団体客の半分ぐらいは揃っていて、あとの半分は写真を撮ったりしているというのではまずい。













First, I'll show you around. After that, you're free.
 (和 訳)

 のように断っておき、写真はあとからゆっくり撮ってもらうようにする。観光の説明は全員にしないと公平感に欠ける。とはいっても、一部の人が写真を撮り終えるまで、説明が始まらないというのでは、ずっと待たされている人に対して申し訳ない。
 大仏の姿をあせってカメラに収めようとする人には、

What's the rush? It's not running away!
 (和 訳)

 のように言って、客がバラバラにならないように注意することもある。
 ただし、富士山は別である。いいシャッターチャンスだと思ったら、どんどん撮らせるようにしている。説明が終わったら、頂上の部分が雲で隠れて見えなくなってしまい、

I missed the perfect moment for a good picture!
 (和 訳)

 などと言われたのでは取り返しがつかなくなる。











 ちなみに、「シャッターチャンス」は和製英語。ふつうは、
This is good timing.
 (和 訳)
 と言ったり、Kodak moment(コダック写真の時間)などと表現する人もいる。


 客の写真を撮ってあげるときは、

Let me get a picture of you in front of the Great Buddha.
 (和 訳)

 のように声を掛ければよい。もしくは、

You can get a picture of me eating dango in front of Saigo-san's statue.
 (和 訳)

 といったふうに客のほうから頼まれることもある。
 シャッターを押すときの掛け声でよく使うのは「チーズ」。これは笑顔になれば「ピース」でも「スリープ」でも「ウイスキー」でも何でもいい。
 東京ディズニーランドでは、
 
Say Mickey (Mouse)! (ミッキー(マウス)って言って!)、
 御木本真珠島では、
 Say Mikimoto!(ミキモトって言って!)
 のような使い分けもできる。
 ただし、「イー」と口を横に開けばニコニコ顔になるが、「オー」では具合が悪い。以前、おどけて「トーフ(豆腐)!」と言いながら口をとがらしていた客は、ひょっとこ面のような顔になっていた。
 また、「チーズ」などの掛け声ではなく、smileを使って、

Ready? Smile! There you go.
 (和 訳)

 といった調子でやるのもいいだろう。

 Don't smile!
 (和 訳)

 と言って微笑んでもらう方法もある。
 お城の見学では、将軍や武将の顔がくり抜かれた絵が置いてある撮影スポットが用意されているところがある。そうした場所で外国人の同行者がいたら、

You can be a samurai for twenty seconds.
 (和 訳)











 などと声を掛けて、シャッターを押してあげるのも楽しい。
 長崎県の千々石(ちぢわ)海岸には、日露戦争で名をはせた橘中佐の絵が描かれた撮影スポットがある。中佐の絵から顔をのぞかせているアメリカ人の写真を撮ったときは、つくづく平和はありがたいという気持ちになったものである。
 同様のことは、ワシントンDCのスミソニアン航空宇宙博物館を訪れたときにも感じた。アメリカ人の見学者が日本製のカメラを手に、第2次世界大戦で使われた零戦の写真をパチパチ撮っていたからだ。カメラ片手に気軽に観光を楽しむためには、やはり平和であることが大前提である。